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こんなに泣ける小説なんて聞いてない!

今日は体育祭の次の日ということで、学校がお休みだ。


長期休暇以外に平日が休みというのは滅多になくて貴重なのだけれど、如何せん体育祭の次の日である。


きつい、体が。


皆よく体育祭の次の日に遊びに行けるよね、としみじみと美琴に言ったところ、あんたと違ってみんな体力あるのよ、と憐れみの目で言われたことがあるけれど、


私はこの後控えている四日間の学校生活を乗り切るために、今日くらいは家でごろごろすると心に決めているのであった。


まだまだ寝ていたいところではあるのだが、とりあえず朝ご飯を食べようと、午前九時に私はベットから出た。本当は12時くらいまで寝ていたいけれど、流石にそれはまずいかな、と思って休みの日はこれくらいの時間に起きるようにしている。朝ご飯を食べた後昼寝をすることも多いので、通算時間としては12時まで寝ていることになる日もたまにあるけど。


平日も休日も、朝ごはんは早く起きた人が作ることになっているのだが、私が兄より早く起きる事なんて滅多にない。


今日も普段着に着替えてリビングに降りていくと、既にお兄ちゃんは起きて朝ご飯を作ってくれていた。私のプレゼントしたエプロンは気に入ってくれているみたいで、ご飯を作るときはいつも付けてくれている。


役に立っているというのなら、プレゼントした甲斐があるなぁと非常に嬉しく思いながら、キッチンへ向かう。


「おはよう、お兄ちゃん。良い匂いだね」


どうやら今朝はカレーライスらしい。


昨日も帰りが遅くなるかもしれないということで、一昨日に作っておいたカレーだったのだが、辛すぎず甘すぎず非常にスパイシーでおいしいカレーだった。ちなみに一昨日の夕飯はハンバーグだったので、わざわざ夕飯とは別に作ったものと考えられる。


別にカレーが二、三食続こうが私は構わないけれども、今日の朝食をカレーにすると事前に考えていたからこそ一昨日はハンバーグだったのだろうか。


「おはよう、唯花。今朝はカレードリア作ってみたんだ。丁度もうすぐ焼き上がるから、椅子に座って待ってて」


などと考えていたら、なんと今朝はカレードリアだった。カレーはカレーでも、カレードリアはどちらかといえばドリアの一種のような気がする。カレーライスになりがちなカレーに一手間加えることで、また別の料理に仕上げるとは。


流石お兄ちゃんである。


「本当!?楽しみ」


それにカレードリアは自分では絶対に作らない料理なので、すごく楽しみだ。


何故絶対に作らないのかというと、オーブンを使うのが怖いからである。使い方がよくわからないし、そもそもオーブンを使わなければいけない料理を今まで作ったことがないため特に必要性を感じたことはないし、無理に使わなくても良いかなーと思ってもはや使うことを諦めている。圧力鍋も同様。


分かってる。使った方が簡単でおいしい料理が作れるのは分かってる。けれども怖い。


私が使えない分、お兄ちゃんが自由自在に使いこなしているので、オーブンも圧力鍋も喜んでいることだろう。ケーキまで上手く焼けるしね。すごいね。私より女子力高いね。


お茶とスプーンさえもきちんとテーブルに用意されていたので、おとなしく座って待つことにした。テレビを付けて、適当におもしろそうなチャンネルに合わせる。すこしでも音を取り入れないと、この静か過ぎるリビングは気まずすぎる。


「お待たせ。熱いから気を付けてね」


そう言って出てきたカレードリアは非常に美味しそうだった。というか、チーズ好きからしてみればこのドリアの表面のチーズだけでもう無条件に美味しそうだ。


「ありがとう。いただきまーす」


卵の黄身もトロリとしていて、卵とチーズとカレーとご飯のコラボレーションがすごく美味しそうだった。けれども非常に熱そうなので、ふーふーとスプーンに載せて冷まして、一口。


「おいっしい」


想像以上にすっごく美味しかった。卵とチーズとカレーとご飯のハーモニーが絶品である。スパイシーなカレーが見事にアクセントになっていて、普通のドリアとはまた違った美味しさだった。


今まで食べたことあるカレードリアのなかで一番美味しい。


「そう?良かったー」


天才シェフであるお兄ちゃんはそう言うと不安そうな顔から笑顔になって安心したようにドリアを食べ始めた。



美味しいけど熱いなーと少しずつドリアを食べ進めていると、


「そういえばさ、唯花は今日何か予定ある??」


と、さわやかな笑顔でお兄ちゃんがそう聞いてきた。


起きたばかりの私には、このお兄ちゃんの笑顔は眩しすぎる。


「えっと今日は昨日の体育祭で疲れたから、部屋でゆっくりしようと思っているんだけど・・・・・・。お兄ちゃんは?」


そう思って視線を逸らすために目線を下げると、お兄ちゃんのドリアが目に入った。私よりも量の多そうだったドリアは既に半分以上食べ終わっている。こんなに熱々のドリアを、そんなハイペースで食べて口の中やけどをしないのだろうか。いや、食べているということはしないんだろうな。その口の中の耐熱性を少しわけて欲しいくらいである。


「そうだね、まだ唯花顔色悪いし、家でゆっくりするといいよ。僕もそうしようかな」


ですよねー!体育祭の次の日は家でゆっくりするものですよねー!!


「うん。お兄ちゃんも体育祭の準備とかいろいろ大変そうだったし、ゆっくり休んだ方が良いよ。今日の家事は、後で私がしておくから」


お兄ちゃんはここしばらく相当忙しそうだったし、是非ともお兄ちゃんにはゆっくりしてほしい。


「ありがとう」


そんな会話の後はテレビを見ながら適当な話題を見つけて話して、ちょっと遅めの朝ご飯を食べ終えた。


「ごちそうさまでした。本当に美味しかった」


「そう?ならまた作るね」


「楽しみにしてるー!」


そんな会話をしながら、カレードリアのお皿を水に浸けて、お茶をタンブラーに入れて自室に持って帰る。


「さて」


ここからが楽しい楽しい休日の始まりだー!


手始めにテレビを付けて、それからゲーム機も起動させる。


そう、今日は疲れるまでゲームをして、疲れたら漫画を読んで、読み終わったらゲームをして、疲れたら小説を読むという、オタクサンドイッチを実行する日なのだ。


その準備をするために、ウォークインクローゼットに向かう。


このウォークインクローゼットは、walkというよりrunもできそうな勢いで広い。とにかく広い。「女の子なんだから、広いウォークインクローゼットにしておいたよ」という気遣いのもとこの部屋になったのだけれど、正直にこんなに広いスペースが必要なほど洋服を持っていないので、大半をオタクグッズを収納するスペースとして有効に活用している。


鞄を置くのだろうなーというスペースにフィギュアを。靴を置くのだろうなーというスペースに本や漫画を。空いた壁にはポスターとキーホルダーを飾っている。殺風景な自室からは考えられないほどのごちゃごちゃっぷりだ。言うなれば痛クローゼット、だろうか。それでもまだ結構スペースは残っている。


オタク道具を隠すために始めたこれであるのだけれど、直射日光が当たらないので良い感じだ。風通しが悪いのが難点だけれど。


お目当てのソフトと、忙しくて読み損ねていた漫画と小説を捜し当てて、部屋に戻る。


疲れたらベッドに寝転がって読む予定なので、本類は枕元に置いて、クッションをテレビの前に持ってきて、コントローラーを握ってゲーム開始だ。


昔から有名な日本のRPGであるファーストファンタジーの最新作は導入部分のストーリーからからすごくおもしろくて、敵を倒すのにも爽快感があって、面白いゲームだが、二時間くらいプレイしていると、少し疲れてきたので、漫画を読むことにした。


漫画は絵もじっくり見たいので、丁寧に読み進めていく。新刊を読んだばかりなのに、新刊がさらに待ちどうしくなるなんて人間とはなんて強欲なのだろうと思いながら再びコントローラーを手にした。



さらに一時間くらいゲームを進めていたのだが、一ノ瀬空先生の新刊の単行本が、気になって気になって仕方がない。


楽しみは最後に取っておく派なので夕方頃に読もうと思っていたのだけれど、そう言う主義は放りだして小説を読むことにした。


今回は残念ながらきらり夏川の新刊ではないのだけれど、それでも十分楽しみだ。一ノ瀬空先生はシリーズものはあまり書かなくて、単行本が多い。今回も特にシリーズ物というわけではない様だった。


今回はどんなジャンルなんだろう。一ノ瀬先生というだけで無条件で購入したので、あらすじさえも実は知らないのだった。楽しみだなぁ。



というわけで、夢中になって読んでいたら、一時間と少しで読み終わってしまった。


今回は社会性の強い小説や恋愛小説ではなくSFの、それもロボットに乗るタイプの小説だった。途中までは笑えたりしたのに、最後に覚悟する主人公のシーンとか、ヒロインとの会話とかがすごく切なくて。結末も全てがハッピーエンドというわけではなくて最後の方はボロボロ涙を流しながら読んでいた。


いやー。一ノ瀬空の新境地っていう感じでした。それを言うならきらり夏川もライトノベルで恋愛小説でシリーズ物という点では新境地だし、一ノ瀬空新境地開きすぎである。


などと考えていたらドアをノックする音が聞こえてきた。やばい。お兄ちゃんだ。


とりあえずテレビを消して、コントローラーと漫画を掛け布団の下に押し込む。オッケー。これで完璧だ。


「はい」


そう言ってドアを開けると、そこには予想通りお兄ちゃんがいた。片手にスーパーの袋を持っている。


「そろそろ何か食べるかなーと思って、差し入れ持って来たよ。具合悪いみたいだったし食べやすいようにアイスクリームにしてみたんだけど・・・・・・泣いてたの?」


あー!部屋の事にかまけすぎて自分の顔をチェックするの忘れてた!!


「えっと、いやこれは」


事情を説明しようと口を開いたけれど。


「具合悪くて辛いの?大丈夫?今から病院行こうか?それとも何か辛いことあった??力になるよ?」


額に手を当てて熱の具合を確認した上に肩に手を当てて目を見て力になろうかと言ってくれるお兄ちゃんの剣幕に口が閉じた。いやなんかもう本当にすみません。小説を読んで泣いただけですすみません。


「だ、大丈夫。あの、その、小説を読んで感動しただけだから」


「本当に?」


うわ、めっちゃ疑われてる。違うんですよ。カモフラージュの為に小説の所為にしてるわけじゃないんですよ。


「本当に。あの本、あの本読んでただけだから」


納得させるためにベットの上に置いたままだった本を手で指し示す。良かった。本だから隠さなくて良いかって思って隠してなくて本当に良かった。


「君のための星?」


「そう、その本」


是非とも納得していただきたい。というか納得してもらわないと困る。本当にこれ以外に理由ないから。


「なら、良いんだけど。・・・・・・。本当に何かあったら相談してね」


肩に置いていた手も離してくれたので、どうやらやっと納得していただけたらしい。


「うん。ありがとう」


良かった良かった。これからは自分の姿も確認してから扉を開けよう。


「あ、アイス。溶けかけちゃったかな」


「ちょっと溶けかけたくらいが食べやすいし、大丈夫。ありがとう」


まぁ、そんなに時間経ってないし、あんまり溶けていないと信じてる。


「そう?なら良いけど。まだ顔色悪いし、ゆっくり休んでね」


そう言ってお兄ちゃんは頬をするりと撫でて階段を下りていった。


え、いま頬を撫でる必要性ありましたか!?!?と動揺したけれど、お兄ちゃんは多分きっとそういう人なのだろうと納得して部屋に戻った。


縁が少しだけ溶けているアイスは、奇しくも私が一番好きな会社のアイスだった。美味しいけど高いんだよね。お兄ちゃんにこのアイスが好きだって言ったことあったっけ、と思いながらゲームを再開する。


ちょっとだけゲームをした後、お兄ちゃんに顔色が悪いと言われたこともあったし眠かったので、少しだけ眠ることにした。



少しだけのはずだったのに気が付けば外が真っ黒。寝過ぎたー!と思って飛び起きたら、時刻は夜の7時。5時くらいに起きて夕飯作ったり、部屋の掃除したりしよう思っていたのに!!と階段を駆け下りてリビングのドアを開けるとと、そこには完璧な空間が広がっていた。


「あ、唯花。顔色大分良くなったね」


部屋はちり一つなくピカピカだし、机の上には夕飯はできているし、さっき差し入れしてくれたアイスクリームは買い出しのついでに買ってきてくれていたものだろう。


うわ。お兄ちゃんごめんなさい。そしてありがとう。


夕飯を食べ終わったあとは、明日のご飯の下拵えをするお兄ちゃんの横で茶碗を洗って、いつの間にか沸かしてあったお風呂に入って、寝る準備をして、明日の学校の準備をして、眠らないといけない時間までゲームをして、最後にリビングまでお茶を飲みに行くことにした。


お茶を飲んでから寝ないとね。夜中に喉が渇いて目が覚めたらリビングまで行くのは大変だからね。


「あ、お兄ちゃん」


リビングのドアを開けるとソファにお兄ちゃんが座っていた。どうやら雑誌を読んでいたらしい。部屋で読めばいいのにと思わなくもないけれども、もしかしたらお兄ちゃんはリビングの方が集中できるタイプなのかもしれない。


「唯花はもう寝るの?」


眠る前に飲むのにふさわしい量のお茶を飲んでいると、お兄ちゃんが雑誌を閉じながらそう言った。


「うん。寝るよ」


夕方に寝てしまったので正直そんなに眠くはないのだけれど、12時近いのでもう寝た方がいいだろう。まぁ、眠るの大好きなので問題ない。


「そっか。お休み。いい夢を見てね」


「うん。お兄ちゃんもいい夢を見てね。おやすみなさい」


笑顔で微笑んでそう言ってくれるお兄ちゃんに私も笑顔でそう返事をして部屋に戻って、しばらくネットサーフィンをした後、眠ることにした。


おやすみなさい。


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