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こんなに晴れるなんて聞いてない!5/5

本日二話目の更新です。

蒼組が優勝して、非常に疲れた体育祭が終わった。


「やったー!!!優勝したー!!!」


四競技に出場したにも関わらず、全然なんともなさそうな顔で優勝を喜んでいる美琴は本当にすごいと思う。しかも全ての競技に全力を出して一位をもぎ取っていたのだから驚きだ。美琴は本当に負けず嫌いだなと思う。


優勝出来たのは美琴が頑張ったからと、お兄ちゃんが組対抗リレーで最下位でバトンを受け取ったというのに、加速装置でも付いているんですか?というくらいの足の速さを見せて一位でゴールしたというのがあったからだと思うけれど。


一番の勝因は、三年生のお姉さまだと思う。


「可愛さなんて、いらない。その代わり優勝トロフィーを湊様に」というのが今月のスローガンの湊様ファンクラブ(非公式)の幹部のお姉さま方が、可愛さ重視で真面目に競技をしない女の子たちを制裁していたからだ。


制裁する、という通知は前々から来ていたけれど、まさか私まで制裁されるとは思っていなかった。


別にお兄ちゃんの妹だからと驕っていたからではなく、足は遅かったけれどもそれでも真面目に走っていたからだ。


なのにねちねちと「あの走り方で本気なわけじゃないでしょ」「湊会長の前だからって可愛く走ったって無駄なんだからね」「ねぇ、話聞いてるの?」上から目線の説教を長々と聞く羽目になり、「私だって可愛さなんていらないから速さが欲しいですよ!!」と思わず言いそうになった瞬間、説教をしに来た追加の先輩が私が湊会長の妹だと言うことに気が付いたらしく、その後すぐに解放されたので助かった。


制裁の内容は三人の先輩から同じ様な説教を受けることだったらしいので、一人目で終わって助かったというべきなのだろうか。


この件について美琴に話を聞いたところ、とにかく真面目だろうと不真面目だろうと、足を引っ張る生徒には説教をする方針らしい。結果を出した上で可愛いのなら、それは別に問題ないらしく、お姉さま方は毎日放課後可愛さを求めながらも結果を出せるように練習していたとかなんとか。


結局可愛さが欲しいんじゃないか、というつっこみは野暮だろう。


などと考えていたら、閉会式が終わって後かたづけの時間になった。


一旦教室に戻り、美術部はクラスとは別の片づけがあるので集合場所に行くと、


「唯花ちゃんは美術室で筆洗ってきて貰える?来年スムーズに使えるように丁寧に洗ってね。明日一日使って乾かすから、乾くように筆並べて置いておいて」


と先輩に言われたので、一人で筆を洗う事になった。筆の入っているバケツを持って美術室へ向かう。


筆の具合を確認していると、前任者が結構不真面目だったのか、絵の具の固まっている筆が結構あったので、げんなりした。


これ、時間内に終わるかな、と思いつつも考えても仕方ないので筆を洗うことにする。


固まっている筆は水に漬けておいて、固まっていない筆を綺麗に見えても根本に絵の具が残っている事が多いので、一本ずつ丁寧に洗う。


道具の手入れって結構好きだなぁと思いながら筆を洗っていると、ドアが開く音がした。振り返って誰かを確認すると、美琴だった。


「美術部は大体終わったから、手伝いに来たわ」


もともとそんなに美術部として後かたづけをすることはないそうだ。


恐らく筆を洗うのが一番時間が掛かると思うので、来年はもう少し人員を是非とも配置してほしい。


今日一日美琴と話をしていたけれど、それでも全然話題は尽きることはなくて、筆を洗いながら会話をしていると、再びドアが開く音がした。


また誰か手伝いに来てくれたのかな?と思って振り返ると、そこにいたのはお兄ちゃんだった。


「あれ、お兄ちゃん??どうしたの?」


まさか片づけの時間が終わってそれで呼びに来たのかな、と思いちらりと窓から外を確認したけれど、まだまだ皆だらだらと掃除をしていたので、違うみたいだった。それもそうだ。もしそうなら、クラスも学年も違うお兄ちゃんが呼びにくるはずがない。


「写真、撮り忘れていた事に気が付いたから」


確かに写真撮ってないけれど、それだけのためにわざわざ美術室まで来るだろうか、と考えて私はとても重要な事を思い出した。


「あー!そういえばお母さんにお兄ちゃんとツーショットの写真送ってねって言われてたんだった!」


前に食事会をしたときにお母さんがそう言っていたのを、お兄ちゃんはきっと覚えていたのだろう。


「美琴、お願いしても良い?」


他に頼む人がいないので、美琴に両手を合わせて頼む。


「いいわよ」


助かったーと思いながらポケットからカメラを取り出そうと思って気が付く。


「あ、カメラ教室に置いてきちゃった」


そうだよー!片づけている間は使わないなって思って置いてきたんだった!取りに行ってる時間あるかな。


「これ使って」


そう思っていたらお兄ちゃんが持ってきていたらしい。流石お兄ちゃん。準備が良い。


「了解。うーん。美術室だと体育祭っぽくないわね。仕方ないけど」


言われてみれば確かに体育祭っぽくはなかった。前の授業が体育で着替えが間に合わないまま美術の授業に来た人と何故か学ランを着ている人のツーショットでしかない。


「じゃあ鉢巻き巻く」


なので、少しでも体育祭っぽさを出そうと鉢巻きを身につけると、お兄ちゃんも鉢巻きを巻き始めた。あの長い鉢巻きって恰好いいなぁと思いつつ、お兄ちゃんの隣に並ぶ。


「はい。じゃあ写真撮りますよー。はいチーズ。はい、もう一枚撮りまーす」


そう言って二枚撮られたあと、


「唯花はもう少し前に出て、そうそう。ちょっと右向いて。うん。それでいいよ。じゃあ撮りまーす」


そう言ってもう何枚か撮られた。そんなに何枚も撮るなんて私写真写り悪いのかな、と心配し始めた頃、やっと満足のいく写真が撮れたらしくて、美琴はカメラから目を離した。


「唯花、今日遅くなるかもしれないけど、気にしないで。美琴ちゃんも、撮ってくれてありがとう」


それを見てお兄ちゃんはそう爽やかに言って、美琴からカメラを受け取って去って行った。


だから私は全然知らなかったんだ。


私だけの写真を撮られたこととか、今日の写真がお兄ちゃんに流れていたことなんて、全然。

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