こんなに晴れるなんて聞いてない!(side 湊)4/5
唯花に写真を撮られている様な気がして顔を上げてみたけれど、フラッシュが光るわけでもなく、シャッター音なんてそこら中から聞こえてくるので、あの瞬間唯花が写真を撮っていたのかどうかは、よくわからなかった。
唯花が俺の写真を撮ってくれていたらいいのに。
そう思いつつも、唯花のいる方向を眺めるのをやめて、手元の資料に目を通す作業を再開する。
忙しい。想像していた以上に忙しい。
とりあえず生徒の手に負えないレベルの問題が起こらない限りは先生方は動いてくれないので、とにかくいろいろな話が運営の元に届く。
落とし物とか、迷子のお知らせとか、進行が遅れているけれどどうしようとか、けが人が出たとか。
それら全ての報告に指示を出した上に応援団長として生徒は応援しないといけないし、自分の出場する競技はあるし、唯花が出場する競技は絶対に応援しないといけないので、指示を出せない時間がある事を踏まえて、前々から様々な指示を予想して出さないといけないので、本当に忙しいのであった。
折角組分けの時に混ぜている抽選棒を目で追って見事に一年一組の棒を引き当てたというのに、全然一緒に居られない。
しかも空き時間をなんとか作ることが出来て唯花の元へ行こう運営本部から出ると、何歩も歩かないうちに待ちかまえていた女の子たちに「一緒に写真を写って下さい!!」と言われて写真を撮ることになるので、唯花に近寄ることさえ出来ていなかった。
勿論断ってもいいのだが、この女の子たちを断って唯花と写真を撮ったら、兄妹とはいえ唯花が恨まれることになりそうなので、唯花と写真を撮るためには女の子たちと写真を撮らなければならないのだった。
そんな時間を繰り返し、お昼ご飯は唯花と一緒に食べる暇もないまま終わり、唯花の競技中は真咲にビデオを撮ってもらって俺は写真を激写し、自分の競技を無難に終わらせ、気が付けば唯花と写真を撮る間もなく体育祭は閉会式を迎えていた。
皆の努力の甲斐あって、蒼組は優勝したのだけれど、これほど虚しい勝利はない。
優勝トロフィーを受け取った後、程なくして閉会式は終わり、後かたづけの時間になった。
後かたづけも指示をしないといけないことがたくさんあるのだが。
あるのだが、このままだと唯花と写真を撮るタイミングがない。
体育祭中に写真を一緒に撮ることが出来なかった女の子たちから、放課後に写真会を開いて下さいと言われたのを桐葉がOKした所為で放課後に写真会を開くことになっているのだが、唯花がこの写真会に参加してくれるとは到底思えなかった。
なぜなら閉会式の時に見た唯花はものすごく疲れた顔をしていたからである。折角だから一緒に帰りたい気持ちはあるけれど、それよりも早く家に帰って休んで欲しかった。
つまり、今この時間を逃せば唯花と体育祭で写真を撮る機会はなくなるということで。
「真咲、後は頼んだ!!」
それだけは絶対に嫌だった。だから俺は運営本部を飛び出した。
ほとんどの人はクラス毎にゴミ拾いをしたり掃除をしたりしているのだけれど、美術部は美術部の片づけがあるので美術部担当の場所を回ってみたけれど、どこにも唯花はいなかった。
もしかして美術部にいるのかもしれないという考えを最後に思いついて、階段を駆け上がり美術部へ向かう。
他の場所だったらもう探す時間がない、居てくれ、と祈るようにドアを開けるとそこには美琴ちゃんと仲良く並んで筆を洗っている唯花がいた。
「あれ、お兄ちゃん!??」
久々に唯花の顔に会うことが出来て、今日一日のイライラが消えていくのを感じた。
「どうしたの?」
それにしても今日の唯花も本当に可愛い。
「写真、撮り忘れていた事に気が付いたから」
一緒に写りたくないと拒否されたらどうしようと今更ながらに気が付いて緊張しながら返事を待っていると、唯花は目を見開いて
「あー!そういえばお母さんにお兄ちゃんとツーショットの写真送ってねって言われてたんだった!」
と叫んだ。あぁ。そういえばこの間家族で食事会したときに言われたのだった。
「美琴、お願いしても良い?」
唯花はぱっと後ろを振り返って美琴ちゃんに両手をあわせて頼んでいるけれども、その姿も可愛い。是非写真に撮りたい。
「いいわよ」
手を拭きながら美琴ちゃんはそう言った。
「あ、カメラ教室に置いてきちゃった」
危ない危ない。唯花と写真を撮る理由が両親に写真を渡す為となっている今、唯花のカメラで撮ることになっていたら写真が貰いづらくなるところだった。
「これ使って」
急いでポケットからカメラを取り出す。というか、今更だけど学ラン暑い。
「了解。うーん。美術室だと体育祭っぽくないわね。仕方ないけど」
確かに美術室で体育祭の写真っていうのはちぐはぐな感じがするけれども、体育祭っぽい場所は片づけをしているので、今の時間に撮ることは出来なさそうだった。
「じゃあ鉢巻き巻く」
そう言って鉢巻きを頭に巻いた唯花はすっごく可愛かった。青い鉢巻きがよく似合う。いや、赤でも白でも似合うと思うけれども。
体育祭の時しか鉢巻きは付けないので、体育祭って言う感じは十分に出る。俺もはずしていた長い鉢巻きを付けることにした。
「はい。じゃあ写真撮りますよー。はいチーズ。はい、もう一枚撮りまーーす」
唯花と写る写真は、あっという間に感じた。他の女の子たちと撮った時はすごく時間が掛かった気がしたのに。
そういえばこのあと女の子たちとたくさん写真を写らないといけないことを思い出してしまった。
面倒だな、そう思いつつも、唯花と写ることが出来たこの写真を自分のご褒美に後少しだけ頑張ろうと、気合いを入れ直す。
そろそろ戻らないと真咲が困っているかもしれないと思い、名残惜しいけれども戻ることにした。
「唯花、今日遅くなるかもしれないけど、気にしないで。美琴ちゃん、撮ってくれてありがとう」
そう言いつつ美琴ちゃんからカメラを受け取ろうとすると
「サービスしておきました」
とカメラを俺に渡しながら、美琴ちゃんが笑顔でそう言った。
サービスって一体なんだろう。
美術室を出て、そう思いながら階段を降りつつ写真を確認すると、そこには俺と唯花の写真以外にも、唯花単体の写真があった。
その写真は光の当たり具合も絶妙で、それにお母さんにあげる写真だと思っているからだろうか、唯花の笑顔がとても自然で、とても綺麗だった。
あぁ。美琴ちゃんありがとう!!!という感謝のメールを家に帰ってすぐに送ったところ、お昼ご飯中の写真とか、休憩中の写真とか、今日美琴ちゃんが撮ったという唯花の写真をさらにたくさん送ってくれて、さらに俺は唯花のあまりのかわいさと、この瞬間に立ち会えなかった後悔に身悶えすることになったのである。




