こんなに晴れるなんて聞いてない!3/5
「それにしても、お兄さんすごい人気ね」
お兄ちゃんのいる生徒会本部を眺めながら、美琴はしみじみそう言った。
「本当に」
私もしみじみそう思う。
ほぼ全ての女子が生徒会役員である三大イケメンのその姿に釘付けだった。
体操服だから、ではない。
応援団の衣装を着ているからだ。
話は今年の2月まで遡る。生徒会が運営している目安箱に、一通の手紙が届いた。内容は、「次回の体育祭の応援団長は、是非三人にしていただきたい」というものだった。
生徒会には、「生徒が望むことのなかで叶えられる願は叶えなければならない」という決まりがあるので、目安箱の意見は月に一回開かれる生徒総会で議題として取り上げ、叶えられる場合は叶えて欲しいかどうかを多数決で決めることになっている。
勿論応援団長の件も議題として取り上げられ、代々応援団長をしている体育委員から、「今年は生徒会が応援団長をしても良い」という許可を得ることが出来た上に賛成派が多かったので、今年は生徒会が応援団長をすることになったのだった。
なので、今年はお兄ちゃん率いる蒼組と、真咲さん率いる紅組と、桐葉さん率いる白組という三チームの戦いだ。
クラス単位の組分けは、皆が納得するように生徒総会中にくじ引きで決めたのだが、組分け中の生徒総会の盛り上がりようはそれはもうすごかった。主に女子が一喜一憂してた。
ちなみに私は何の因果か分からないけれど、お兄ちゃんと同じ蒼組である。
話は長くなったけれども、このような経緯を経てお兄ちゃんたちは組のリーダーも兼ねている応援団長となり、応援団長の衣装である学ランを着ているのであった。
そしてうちの学校の制服はブレザーなので、学ランのお兄ちゃんたちはレアであるから、女の子たちがきゃーきゃー騒いでいるのである。
確かにいつものお兄ちゃんと違って学ランというのはすごく新鮮な恰好であるけれども、記者会見か何かかな、というくらい皆が写真を撮っている様子を見ていると、そんなに撮らなくても良いのではないだろうか、とつい思ってしまう。しかも全部盗撮だし。
ちなみに体育祭といえども授業なので、今日携帯電話の使用して良いのはお昼休みだけで、運動場には携帯電話を持ち込んではいけない。その代わり、デジカメの持ち込みは許可されているので、余計記者会見っぽさが出ているのかもしれなかった。
隣に座っている美琴も勿論デジカメを持っているし、斯くいう私も持っている。美琴も他の女子と変わらずに、いや他の女子とは違って学ランを描くときの参考にしようと思っているのだろうけれども、学ラン姿の生徒会メンバーを写真に収めようと躍起になっていた。
美琴も構ってくれないし、お兄ちゃんの学ラン姿をカメラに収めないのも勿体無いのかなーと思ったので、とりあえず私も周りの流れに乗ってお兄ちゃんを撮ることにした。
レンズ越しに少しだけお兄ちゃんを眺めていたのだけれど、本当に忙しそうだ。資料を読んだり、人に話しかけられたり。私たちは他人を盗撮するくらい暇なのに、お兄ちゃんを含めた運営の人たちはみんな忙しそうだった。
申し訳ないのと、盗撮であることは自覚しているので、ばれません様に、とそっとシャッターを切ろうとした瞬間、お兄ちゃんがぱっとこちらを見たような気がした。
なので、思いっきりカメラ目線のお兄ちゃんが撮れてしまった気がする。
本当に一瞬しかこちらを見なかったので、周りの女の子たちは「私の為にこっちを見てくれた」とか、「見てない」とか「撮れなかった」とか「撮れた」とか、いろいろ騒いでいる。
その中、撮った写真を見返してみると、やっぱりお兄ちゃんはこちらを見たらしい。どう見ても写真の中のお兄ちゃんと目が合う。
これ盗撮なんですよーと言っても嘘だと思われるレベルのカメラ目線だ。
たまたまかもしれないけれども、もしもお兄ちゃんは撮られる瞬間が分かるのだとしたら、それはつまり妹が兄を盗撮していることが分かるということだ。
そうなると、兄を盗撮する妹というのはあまりよろしくないな、と思ったので、お兄ちゃんの盗撮は美琴に任せることにした。