こんなに面白い場面に出会えるなんて聞いてない!(side 桐葉)
何となく湊くんと一緒に剣道部を見に行っただけだった。
だから、湊くんに「会わせてよー」とお願いしても会うことを許して貰えなかった唯花ちゃんに会えた上に、こんなに面白い場面に出会えるなんて全然予想なんてしていなかった。
まず、妹が怪我をしたのではないか?と感情をあんなに露わにした湊くんが面白かった。いつもの冷静な湊くんだったら、「あれがもし本物の怪我だったらさっさと手当しているはずだし、そんな怪我をしている人に普通なら筆を洗いに行かせるわけない」という事実に簡単に気が付いたはずなのに。
どうやら唯花ちゃんのことになると冷静じゃなくなるらしい。
あと、俺が握手をしようとしたら容赦なく手刀を打ってきた湊くんも面白かった。超痛かったけど。超痛かったけど!!
それと「触るな」と言って唯花ちゃんの腕を掴んで引っ張った柚葉も面白かった。まさか柚葉がそんなことをする日が来るなんて思ってもいなかったからね。
というか、二人ともひどくない?一体俺のことをなんだと思っているんだ。ぷんぷん。
しかし、湊くんが唯花ちゃんを連れ去ったのも面白かったけど、何より一番面白かったのは唯花ちゃんを湊くんが連れ去った後の、柚葉の表情だった。
最初はおもちゃを取られた子供のような表情をしていたけれど、段々事態を読み込めてきたのか、最終的には敵を見つけた少年漫画の主人公みたいな表情になっていたからである。
だから、単刀直入に聞くことにした。
「ねぇ、もしかして唯花ちゃんのこと好きなの?」
そう聞くと、柚葉は顎に手を当ててしばらく考えた後、
「正直に言いたくない」
とある意味恐ろしく正直な発言をしてきた。
いつも思うけど、この子友達いる??大丈夫??
「まぁまぁ、正直に言ってみなよ」
「・・・・・・好きって言ったら絶対兄貴取るじゃん」
取るじゃんって、俺が唯花ちゃんと付き合うってことだろうか。
「いやいやいや、それはない」
お前と違って俺は命が大事なんで。
「というか、俺が今までお前から何か奪ったことがあった??」
別に弟の彼女を誘惑してわざと取ったりしたことなんてないんだけどなー。弟が好きになったやつが俺の事が好きだった事はあったかもしれないけど。
「まともな学校生活と冷蔵庫のおやつ」
あー。うん。それについてはあまり否定できないが、前者については俺とお前を美形に生んだ母親と父親に文句を言うんだな!
「まぁまぁ、お前もさっきの様子見たでしょ?お前一人じゃ湊には勝てないよ」
そう言うと、確かに、という顔を柚葉がした。
まぁ、ここまで聞いたらもう答えを聞いたようなものだけれど、でも一応はっきりと聞いておきたかった。
いや、嫌がらせのために聞きたい訳じゃなくて、弟に協力するとなれば間接的とはいえ湊くんに喧嘩を売ることになることになるので、ここをはっきりさせておかないといけないのである。もしも俺の勘違いでしたーってなったらなんのために喧嘩を売ったのか分からなくなるからね。
「・・・・・・三枝さんのこと、好きだよ」
そう言う柚葉の顔は真剣で、本当に唯花ちゃんが好きなことが伝わってきた。だから、俺はこの弟に協力してあげるとことに決めた。
「分かった。だったらお兄ちゃんが協力してあげるよ」
その言葉が意外だったらしく、柚葉は驚いた表情をして、そしてものすごく怪しむ顔になった。
「本当に・・・・・・・?」
「本当だって」
おかしいなー。こんなに疑われるくらい弟に対して日頃の行い悪くないと思うんだけどなー。まぁ、昔はね、いろいろしたけれども、わりと大きくなってからは良い兄だったような気がするんだけどなー。
「でもなんで?三枝主将と仲良いんでしょ?」
まぁ、仲良いけどね。
「俺は友達よりも弟の方が大事だから。だって友達はいくらでもいるけど、弟は柚葉だけしかいないでしょ?」
そう言う俺の発言を疑いつつも一応納得する柚葉は、本当に俺の弟なのか?というくらい素直な奴で。
だからこそ放っておけないなぁと思った。




