こんなにいろいろな人に出会うなんて聞いてない!3/3
本日二話目の更新です!!
「俺信用されてなさすぎじゃね!?ねぇ、唯花ちゃん」
そう柚葉さんは私に話題を振ってきたけれど、私に振られても困る。
「えーっと」
だって私桐葉さんのこと何も知らないし、日頃の行いじゃないですか?としか返事出来ないけど、それは言ってはいけないだろう。とりあえず笑って誤魔化そうと思っていたら、
「あと、柚葉は人の妹の腕に気安く触らないでくれる」
お兄ちゃんがそう言って、私の腕を掴んでいた柚葉くんの手を払いのけた。そして、今度はお兄ちゃんが私の手首を掴んで歩き始める。
「え、お兄ちゃん!?」
なので必然的に私も付いて行くことになってしまった。
え、というか、柚葉くん掴んでたところ私の二の腕じゃない?ふにふにしてるーとか思われてたらどうしよう。いや、二の腕ってある程度はふにふにしてた方がいいのか……?
いやいや、こんな現実逃避している場合ではない。いったい全体この状況は何なんだ。
「あの、お兄ちゃん、どうしたの?」
しかも、私の手を引く前のお兄ちゃんの表情は無表情で、それがすごく怖かった。いつもお兄ちゃんは、私の前だと笑顔だから。
「筆、洗いに行くんでしょ?手伝うよ」
確かに歩いて向かっている方角には手洗い場の方角だったし、私は筆を洗わないといけないのだけれど、私が聞きたいのはそういうことじゃない。それに、手伝ってくれるのはすごく助かるけれど、他にもお兄ちゃんは用事があったんじゃなかったっけ。
「えっと、そう、お兄ちゃん剣道部見に行くんじゃなかったっけ。それに桐葉さん置き去りにしていいの?」
あと、柚葉くんとすごく微妙な空気で別れてしまったと言いたかったけれど、それを言うのは躊躇われたので言うのはやめた。とりあえず明日私から謝っておこう。
「……柚葉が制服だったから剣道部はもう終わったみたいだし、桐葉なんて放っておいていいんだ」
そう言うお兄ちゃんは、決してこちらを向いてくれなくて、私は全く兄の表情を読みとることも、感情を読みとることも出来なかった。
気まずい空気のまま私たちは手洗い場について手分けをして筆を洗うことになった。とりあえず手に付いたインクを落とそうと努力してみたけれど、到底落ちそうにはなかったので諦めて筆を洗うことにする。
「柚葉とは……仲良いの?」
無言でひたすら筆を洗っていると、お兄ちゃんが沈黙を破ってそう聞いてきた。
「えっと、時々話すくらいかな?」
もしかしてお兄ちゃんと柚葉くんってもの凄く仲が悪いのだろうか。
うーん。お兄ちゃんが剣道で負けた姿はこないだ見た限りで全然想像付かないけど、練習試合でもした時に柚葉くんに負けてしまったので恨んでいるとか……?それともお兄ちゃんに剣道でこてんぱんにされたからお兄ちゃんのことを嫌いになった柚葉くんがお兄ちゃんにいやがらせをしていて、それでお兄ちゃんも柚葉くんのことを嫌いになったとか……?
いやいや、どっちもそんなことをしそうなタイプには見えない。
いや、二人のことをそこまで知っているわけではないけども、それはないような気がする。
「柚葉とは、仲良くしないで」
そんなことを考えていたら、お兄ちゃんが本当に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でそう言ったので、反応が遅れてしまった。
だから、聞き返すことも、疑問を口にすることも、はいもいいえも言えないまま、筆を洗う音とともにその言葉は流れていってしまったのである。