こんなにいろいろな人に出会うなんて聞いてない!1/3
五月と言えば、ゴールデンウイークを思い浮かべる人が多いと思うけれど、睦月高校生にとって五月と言えば体育祭だ。
そしてその体育祭は五月の第三日曜日に行われる。
なので、入学式が終わって学校生活に慣れた頃には体育祭の練習が始まるし、美術部も体育祭の準備で忙しいのだった。
美術部が何故忙しいのかと言えば、正門と裏門に置く体育祭の看板と、入場門や退場門の看板と、体育祭のポスターの絵の看板を作らないといけないからである。
一年生は主に看板作成の中心である二年生から指示をされたことをすればいいので、気楽といえば気楽であるのだが、「来年は君たちがこっちの立場なんだからね!!」と言われているので全然気楽じゃないのだった。
というわけで、ゴールデンウィークも看板を作りに学校に登校しないといけないのである。
お兄ちゃんは四月末にあった剣道の地区大会に個人でも団体でも優勝したので、ゴールデンウィークは剣道と生徒会で私同様忙しいらしい。
なので、今年はゴールデンウィークと言っても全然ゴールデンな感じのしないゴールデンウィークなのであった。まぁ、ゴールデンウィークはどこに行っても混んでいるので、学校にいるくらいが丁度いいのかもしれない。
それに、これだけ大きいものを作成するというのはなかなか今までになかったので、ものすごく楽しい。ただ、地面に大きなブルーシートを敷いてその上で描かないといけないので、姿勢的には時々辛い。
「その作業が終わったらここ、この色で塗っておいて。パレットおいて置くから」
「はい」
そう言って先輩はパレットを置いて、また別の場所へ作業しに行ってしまった。
今日はもうゴールデンウィーク三日目の夕方で、明日くらいには完成しそうな感じである。あと一踏ん張りだー!と気合いを入れて伸びをして、床に手を着いた瞬間、べちゃっと少しだけ冷たくていやな感触が手のひらにした。
あ、これ、さっき先輩が置いていったパレットの上に手を着いたんだろうなーと思って確認してみたら、案の定手のひらにべったり絵の具が付いていた。
幸い絵の具の量がいっぱいあったので手のひらに付いた分を差し引いても色を塗るのは大丈夫そうであったが、手に付いたインクはなかなか落ちそうにない。しかもよりによって赤色で、それも鮮明な赤ではなくてちょっとだけ血の色っぽい色で、絵の具だとわかっている自分でも自分の手のひらを見てもびっくりするくらいである。
あー。まぁ、絵を描いていたらこういうこともあるよねーと思って、もはや手についたインクを落とす努力はやめることにして、指示された作業を続行することにした。
「お疲れさまでした!明日で作業は終わる予定なので、明日も気合いを入れて頑張っていきましょう!」
午後5時、今日の作業が終了した。
「唯花ー。お疲れ」
と、美琴が疲れた表情で駆け寄ってくる。美琴は一年生リーダーに選ばれていて二年生リーダーに先輩にマンツーマンでいろいろ教わっているので、ただ色を塗っているだけの私より大変そうだった。
お疲れ、と声をかけようと思った時、
「美琴ちゃん!ちょっとこっちに来て」
「唯花ちゃん、この筆洗ってきてもらえる?」
と二人で呼ばれてしまったので、私たちは顔を見合わせて再び別れることになった。