表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/142

昼食会なんて聞いてない!(side 唯花)

「唯花がドア開けなさいよ。あたし完璧にアウェイなんだからね!」


お昼休み、私と美琴は生徒会室のドアの前で揉めていた。


「いや、お願い。美琴が開けて」


私がドアを開けるべきなの分かってるけど、ドアを開けたくない。開けたくない。


そんな私の頑なな様子を見て、美琴は覚悟を決めたようにはぁ、とため息を吐いてドアに手をかけた。


「お招きいただき、光栄ですわ」


そしてそう言ってドアをがらりと開けたのだが、ごめん。頼んでおいていうことじゃないけど、部屋に入る台詞のチョイス間違っていると思う。豪勢なパーティに招待されたお嬢様かよ。


「お邪魔します」


と美琴に言える雰囲気でもないし、言ったら確実に怒られるので、私は無難にお邪魔しますと言うことにした。


「どうぞどうぞ。こちらへ」


お兄ちゃんの友達の真咲さんが、ドアの近くで待っていてくれたらしく、席を勧めてくれた。


「どうも」


席には、美琴と横並びで座ることにする。うわー。生徒会室に縁のない中学校生活を送っていたので、生徒会室にいることにまず緊張する。


「初めまして。三枝湊です。よろしく」


きょろきょろと生徒会室を見渡していると、いつの間にかお兄ちゃんが私の前の席に移動していて、そして美琴に自己紹介を始めた。そっか、自己紹介をしなきゃいけないんだった。私は真咲さんと顔を合わせるのは初めてだし、美琴に至っては真咲さんとお兄ちゃんと顔を合わせるのははじめてだもんね。


「初めまして、静岡美琴です」


そう言って美琴とお兄ちゃんが握手をしている姿は、まるで会談の前の商社マンって感じだった。あくまでドラマ的なイメージで、なんだけど。


それにしても美琴は美人だから、お兄ちゃんの隣に並んでいても遜色ないな・・・・・・。きっとプリクラをお兄ちゃんと一緒に撮っても、美琴は私みたいな気持ちにはならないんだろうな。そんな日はこないと思うけど。


「どうも、若山真咲です」


美琴の次はお茶を出つつ真咲さんが、美琴と私に向かってぺこりとお辞儀をして自己紹介をしたので、最後は私だった。


「えっと、三枝唯花です。よろしくお願いします」


私も真咲さんを見習ってお辞儀をする。これで一通り挨拶が終わったので、私たちはお弁当を食べ始めることにした。


「いただきます」


お弁当の蓋を開くと、今日のメインはハンバーグだった。やった。ハンバーグ好きなんだよね。うん。いつも通りおいしい。


「今日のハンバーグの味付け、どうかな?いつもとちょっと作り方変えてみたんだけど」


「大丈夫、いつも通りおいしいよ。・・・・・・作ってくれてありがとう」


へ、へー。いつもとちょっと作り方違うんだ。違いがよく分からなかったけれど、普通においしかったし、それにお礼を忘れていたのできちんとお礼も言う。


その後はしばらく黙々とお弁当を食べる時間が続いて、非常に気まずい。けど、話題なんて思いつかないよー!どうして生徒会室に簡単な料理をしようと思ったら作れそうなキッチンが付いてるんですか?くらいしか話題が思いつかないよー!


「あー。えっと、唯花ちゃんは高校でも美術部に入るの?」


さすがのお兄ちゃんでもなんで生徒会室にキッチン付いてるかは答えられなさそうだし、話題として適切じゃないなぁと思っていたら、真咲さんが話題を振ってくれて気まずい空気が消えたので助かった。


「はい。あと、美琴も同じく美術部に入る予定なんですよ」


はい、だけだとあまりにも短い返事すぎるので話題を増やすためにも美琴の話をしてみる。


「へー。そうなんだ。あー。そういえばさ、明日から一週間部活の体験入部期間じゃん?決まってる部活あるならその一日をさ、剣道部見学に費やしてみない?」


なんで美琴の話までしたのに剣道部見学の話になってるんだろう……?ここは美術部の話を軽くする場面なんじゃないのか??


「えっと」


え、というか普通部活見学って部活を迷っている人がするものなんじゃないだろうか。どうしよう。美琴、何か上手い返事をして、断ってくれ……!


「いいですよー!丁度剣道部見学してみたかったんです!ねー。唯花」


そうアイコンタクトをしたはずなのに、美琴には全く伝わっていなかった。


「へ?ちょっと美琴」


なので美琴の肩を引っ張って、小声で会議をすることにする。


「何?」


「いや、本気で剣道部見学行くの?何で?」


まさか、剣道部のマネージャーに転向するつもりなのかな。


「だってあたし、袴姿の人が動いているところを見学してみたかったんだもん。絵の参考にしたいから!それであわよくば写真を撮らせてほしい。でも一人で行くのは流石に気まずいから唯花に付いてきてほしい」


違ったことに安心はしたけれども、理由がオタク的すぎる。どうせ今流行の刀男子の絵を描くために参考にしたいんでしょ!私知ってるんだからね!


「・・・・・・私も行きます」


行くと正直面倒なことになりそうだし私は本当は遠慮しておきたいのだけど、ここあたりで美琴に日頃の恩を返しておかないと、首が回らなくなりそうなので、仕方なく私もついて行くことにした。


「ならさ、連絡先交換しない?見学来てくれる時、連絡貰えた方が便利だし」


その真咲さんの発言により、私は真咲さんの連絡先を得ることになったのだった。まぁ、あると便利だよね。使う日はこないと思うけど。


「あー。えっと、お二人はいつからの友達なんですか?」


連絡先を交換したあと、私だけお弁当がまだ少し残っていたので急いで食べていると、もう食べ終わっていた美琴が気をつかったのか、そう話題を振っていた。ごめん。食べるの遅くてごめん。


「俺が小学四年生の時に湊の学校に転校してそれからなんとなく仲良くなったかな」


そのなんとなくが一番気になる。


「そういう唯花と美琴ちゃんはどうやって仲良くなったの?」


気になるので聞こうかとも思ったけれど、お兄ちゃんが先に質問してきたので聞くのはやめた。


「えっと、中学一年生の時に同じクラスになって、名字的に席は近かったんですけど、違う小学校だったし最初の頃は仲良くなくて、美術部で同じってことが分かっても仲良くならなくて・・・・・・。あれ、どうやって唯花と仲良くなったんだっけ?」


あぁ。そういえば最初の頃ってそうだったんだよね。というか、一番大事なところを忘れないでいてほしい。


「中学一年の夏に、クロッキーのペアに無理矢理先生に組まされたからだよ」


クロッキーのペアといっても、片方がモデルになって片方が描くというペアではなくて、クロッキーが終わった後、相手の絵の良いところを誉めあうペアである。


「あー!そういえばそうだったわね」


なんていうか、忘れないでほしい。


「無理矢理って?っていうか何でそんなに距離感あったの?」


その理由は美琴を目の前にしてものすごく言いづらいのだけれど、ここは言うしかないか。多分ばれてるし。


「それはその・・・・・・。美琴が怖くて距離感取っていたら、顧問に無理矢理仲良くしろとペアを組まされました」


絵の指導も熱心な先生だったけれど、美術部の雰囲気をよくしようとするのにも熱心な先生で、何も言っていないのに私と美琴の間の微妙な空気を読みとって無理矢理ペアに指名してきたのだった。


「怖がられているのは知っていたので無理に近づかないようにしていました」


やっぱり怖がっていたのばれてたかー!だって美琴なんか怖いんだもん!美琴と一緒にいた人も怖そうな人だったんだもん!と心の中で言い訳しつつ、ようやく私は食べ終わったのでお弁当を包み直した。


「じゃあ、唯花も食べ終わったみたいだし、次の授業の準備があるのでそろそろ失礼しますね」


美琴がタイミング良くそう言ったので、この不思議な不思議な昼食会は解散となった。


「じゃあ、また」


真咲さんが爽やかにそう言ってくれる。緊張していて最初は気がつかなかったけれど、真咲さんってお兄ちゃんと違うタイプの格好良い人だなぁ。硬派って感じ。いや、お兄ちゃんがちゃらいというわけではないんだけど、真咲さんと比べるとなんかちゃらいんだよね。謎。


「はい、ではまた」


そう言って生徒会室を去ろうとすると、


「あ、唯花。僕今日部活に行くから帰り少し遅くなるね。あと、夕飯の買い物して帰るから」


とお兄ちゃんが連絡事項を伝えてきた。


「え、お兄ちゃん部活に行くなら、私が夕飯の買い物して作るよ」


去年からの流れでなんとなく家事をお兄ちゃんに任せる日が多かったけれど、受験が終わったことだし、そろそろ私も家事を頑張らないといけないだろう。


「大丈夫、今日お昼ご飯つきあってくれたお礼に作るから」


そう言うお兄ちゃんと押し問答している時間はもうあまりないので、ここは私がおとなしく引き下がることにする。


生徒会室から去る時、私は疲労感でいっぱいだった。つ、疲れた。


はぁ。午後からさらに授業があるのか……。信じたくないな……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ