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雨が降っても誰も迎えに来てくれないものだと聞いていました。(side 湊)

「あ、雨だ」


スーパーで支払い終わってふと窓を見ると、傘がないと困るくらいの雨が降っていた。


困った。せめて支払いが終わる前に気がついていたら、商品を眺めつつ雨宿りをしたのに。それにお米と、安かったサラダ油を差し迫って必要ないのに買わなかった。


こんな大荷物ではたとえ傘を買ったとしても差せないじゃないか……。


そう反省したところで、支払いが終わってはどうしようもなかった。


出入り口で雨宿りしようかとも思ったけれど、いつ上がるかわからない雨を待つくらいなら、雨に打たれても早く帰りたかった。時間勿体ないし。氷を入れたとしても冷凍食品を早く冷凍庫に入れたい。


買ったものはレジ袋に入っているし、携帯も財布も濡れないようにビニール袋に入れれば、雨に打たれても大丈夫だろう。


そう判断して、携帯と財布をビニール袋に入れた。



外で急に雨が降ると、小学生の頃を思い出す。


小学生の頃、下校時間に急に雨が降ると、傘を持って親が門まで迎えに来ている人が必ずいた。


もちろんそうじゃない人が大多数なことは理解している。けれど、雨が降って迎えに来てくれるという行為が凄く羨ましかった。


父は幼い頃から忙しい人であったし、母は顔も覚えていないくらい小さな頃に亡くなった。


その代わりお手伝いさんがいたけれど、本当に家事をするだけで、優しくされたことはあまりなかった。


だから、親が傘を持って迎えに来てくれるということは、傘を持っていなくてどうしようと心細い小さな頃の自分にとって、衝撃を受けるくらいの優しさだったのだ。


そして、同時にその優しさをかけてくれる人が自分にはいないことがとても悲しかった。


今は全然悲しくもなんともないのだけれど、あの頃の気持ちを、急な雨を見る度に思い出す。


そんなことを考えつつ袋詰めをして外に出ると、そこには唯花ちゃんがいた。


「あれ、どうしたの?もしかして必要なものがあった?電話してくれたらよかったのに」


それとも電話に気がつかなかったのだろうか。でも、さっきビニール袋に入れた時に確認したけれど、特に電話もメールもなかったのでそれはないと思う。


……もしかして気軽に買い物の追加を電話で言えないくらい心を開いてくれていないのだろうか。


「いや、えっとその、急に雨が降ってきたので、迎えに来ました」


その言葉に、一瞬耳を疑った。そして自分の目と脳も疑った。


けれど、この世界を再認識すると、間違いなくこれは現実だった。


現実に、自分のことを、ただ雨が急に降ってきたということだけで心配して迎えに来てくれる人が、自分にもいるらしい。


その事実が、自分でも思ってもみなかったほど嬉しかった。


これが、家族というものなのか、とこの時初めて思った。


そして、これからもこういう家族みたいなことが出来るのかと思うと、凄く嬉しかった。

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