昨日ゲームセンターに行ったなんて聞いてない!(side 真咲)
「お昼ご飯誘っちゃったー!」
朝練が終わり教室に戻って一息入れていると、湊が携帯を眺めながら嬉しそうにそう言った。
「へー。誰誘ったの?」
いつもは湊と二人で生徒会室で食べているのだが、今日は桐葉でも誘ったのだろうか。桐葉はいつも女子と食べているので滅多に誘わないのだけれど、何か話したい話でもあるのかもしれない。
いやいやいや。おかしい。桐葉だったらそんなに嬉しそうに言わないだろう。ま、まさか。
「へ?唯花だけど」
うわぁぁ。やっぱり唯花ちゃんだった。
「え、本当の本当に?」
「本当に本当に」
俺こいつのこと頭いいし、天才だと思っているけど、今日ほどこいつが馬鹿だと感じたことはない。
いや、ダイヤモンドの指輪を真剣にあげるかどうか悩んでいた時の方が馬鹿だとは思った。
「お前な、新学期二日目にお昼ご飯誘っても断られるに決まってるだろ」
新学期というのはいろいろな思惑がうごめいている季節なんだからな。
「へ?なんで?」
まぁ、湊はそんなことを感じ取ってこなかったと思うけど。
「友達作るためだよ!入学してすぐのお昼っていうのは、仲良くしたいなーって思った子と食べるもんなんだからな!ここで一年間誰と過ごすか決定すると言っても過言じゃないくらい、この一週間が勝負なんだからな!」
「え、でも唯花には美琴ちゃんいるし」
同じクラスでもいろいろあるんだよ!!
「お前と俺はそうだったけど、美琴ちゃんと唯花ちゃんは違って、二人グループが三人グループになったり、四人グループになったりするかもしれないだろ」
俺と湊だって、桐葉と同じクラスになったので、今年は桐葉も含めた三人組みたいなものだ。ただしあいつは友達が多いし、ふらふらといろいろな人と仲良くしているみたいだから2、5組といえよう。
「そっか・・・・・・。きちんと真咲に相談してからメールすればよかった」
そうそう。俺に相談してくれれば一ヶ月後の定期考査後くらいが学校に慣れてきた時分で丁度いいんじゃないのか?ってアドバイスしたのに。
「昨日上手くいったから、調子に乗っちゃったのかもしれないなー」
へー。湊でも調子に乗ることあるんだー。
「って昨日ってなんだよ」
「昨日?あぁ。唯花と一緒にゲームセンターに行ってプリクラ撮ってきたの。見る?」
なんだその情報は!!全然聞いてないんだけど。
怖い。人としては生きてきていたけど、対人能力を利用してこなかった湊の向こう見ずさ怖い。怖いもの知らずすぎて怖い。挫折を知らない人間の挑戦能力の高さ怖い。
「あ、そういえば今度カラオケに行こうよ!俺行ったことないんだよねー」
俺が後少し頭が良くて、運動神経があったらこいつに挫折というものを味わわせてあげられるのに。どうして俺はこんなカラオケにも行ったことのない男にすべてにおいて負けていて、こんなに挫折感を味わっているのだろう、と冷静に考えるとすごくのんきそうにカラオケに行きたがっているこいつに対してイラっとした。
しかし仕方がない。俺はどう逆立ちをしたってこいつには勝てそうにないのだから。
「また今度な」
だからこそこいつが唯花ちゃんに嫌われるという人生初めての挫折を経験したときが怖い。すべてが手につかなくなって廃人になったらどうしよう。せめて、せめてこいつが唯花ちゃんに好かれるとまでは言わなくても、嫌われない程度にはアドバイスしてやりたい。
「あ、返信きた!!美琴ちゃんと一緒ならいいよ、だって!!!やったー!!」
まじかよ。ふーん。美琴ちゃんもいるのか。
「なら俺も参加して良いんだよな」
「もちろん」
そう返事する湊は物凄く嬉しそうで、よっぽど一緒にお昼ご飯食べたかったんだな……と思った。
まぁ、丁度よかったか。俺だって唯花ちゃんと美琴ちゃんがどんな子なのかは早めに知りたいし。
気合を入れてお昼ご飯に臨まなければ、と思った時、一時限目を知らせるチャイムが鳴った。