お兄ちゃんがこんなに人気者だなんて聞いてない!2/2
一体全体なんだったんだ、と思いつつ鞄を机の上に置いて荷物を整理していると、さっき大きな声で挨拶をしてきた女の子三人組が近づいてくるのが見えた。
「三枝さん!おはよう!」
そして再び挨拶である。謎だ。
それにしても高校生活2日目にして制服をおしゃれに着崩しているリア充系女子に囲まれているのは怖い。しかも教室に入った瞬間に挨拶されたということは、それはつまり名前を把握されているということである。うわー。怖すぎる。
「あのさ、三枝さんが湊さんの義理の妹さんって聞いたんだけど、本当??」
「本当なら、是非是非紹介して欲しいんだけど!」
「手紙!手紙渡して欲しいんだよね!」
オッケー、全てを把握した。
そっか……三枝なんて珍しい名字だもんね……。これが佐藤とか鈴木だったら、ばれなかったかもしれないけど!
そう考えても兄と私の名字が変わることはないので現実を見よう。
しかしどう返事をするべきなのか。いや、下手に嘘を吐いてばれた時が怖いから正直に返事をしなければならないだろう。
「妹ではあるけど、紹介したりとか、手紙を渡したりするのはちょっと……」
しかしリア充系女子が怖いとはいえ、一人受け取ったことにより今後全員から受け取らないといけないという事態だけは回避しなければならない。
「えー。そんなー!」
「いいじゃん!ちょっと手紙を渡してくれるだけでいいの」
ちょっと手紙を渡すだけ、というのなら、自分で渡してたらいいじゃないか!!とは流石に言えない。今日で高校生活を終えるならまだしも、今日から高校生活始まったばかりでそんな強気なことは言えない。
「まぁまぁ。君たち。あんまりしつこく唯花に構うとこわーいこの人のお兄さんに仕返しされちゃうぞー」
困っていると、ようやく登校したらしい美琴が私の後ろから助け舟を出してくれた。美琴が救世主か女神かヒーローに見える。
「湊先輩が怖いですって?」
訝しげなリア充系女子に対しても、美琴という強カードは通じるらしい。
「そう、優しそうに見える人ほど怒ると怖いんだよー。あとあの人シスコンだから、妹いじめる人に対しては怖いから、しつこく絡むのはやめようねー」
それにしてもお兄ちゃんと会ったことさえないというのに、超知り合いだせ!みたいな雰囲気をよく出せますね、美琴さん。
まぁ、その迫真の台詞のおかげで三人の女子は去ったから助かったけど。
「美琴ー!助かったよ!!……はぁ、もう私美琴以外の友達できない気がしてきた」
お兄ちゃんが人気者だとは知っていたけど、こんなに人気者だとは聞いてないよー!
「あたしだってあんたを庇っていたら友達出来そうにないわよ」
た、たしかにそうだ。さっきみたいな感じで庇ってもらっていたら矢面に立っている美琴の方が友達作りにくいのかもしれない。
「つまり私と美琴は一蓮托生ってことだね!」
「あんたがあたしにおんぶにだっこの間違いじゃないの?」
正論すぎて反論できずにいると、はぁとため息を美琴は吐いた。
「冗談よ、冗談。いくら手厳しいこと言ったってあたしと友達続けるようなバカ、あんたくらいしかいないわ」
んん?誉められているのか、けなされているのかよく分からない台詞だな……。まぁ、ここは誉められていることにしよう。
「あー!っていうか、あんた昨日うちの親に遠慮してお兄ちゃんと帰るとか言ってたけど、それ嘘だったんでしょ?もー遠慮しなくてもよかったのに」
あぁ。そういえばそんなこともありましたね・・・・・。いろいろなことが衝撃的すぎてなんかもうすっかり忘れてた。
「いや、本当にお兄ちゃんと帰ったんだって」
なんていうか、善良な美琴親子に嘘を吐いた代償は大きかった。
「マジで?」
「マジで」
嘘からでた実とはまさにこのことである。
「どういうことなのか、一から十まできちんと説明してもらえるかしら」
怖い。笑顔のはずの美琴が怖い。味方だと頼もしいのに敵になると怖い。
素直におとなしく白状していると、私の携帯電話が音を立てた。あぁ。そういえば授業中携帯電話鳴ったら没収されるから、マナーモードにしなきゃいけないんだった。
危ない危ない、メルマガが来て助かったと思いつつ一応メールを確認すると、噂をすれば影が差すのだろうか。お兄ちゃんからだった。
「美琴・・・・・・。お兄ちゃんが一緒にお昼ご飯食べない?って誘ってきたんだけど」
しかもお昼ご飯のお誘いである。えぇ……。っていうか、今思い出したんだけど昨日お兄ちゃんがうちのクラスで待っていたってことはクラスメイトに会ったってことなんじゃないか?
それで義兄妹ってばれたんだ。
名字も多少は関係あったかもしれないけど、おそらく早々にばれた原因は兄だ。多分そうだ。
「へー」
「いや、でもほら私と美琴は一蓮托生だからさ、もちろん美琴と食べるよ!」
美琴をお昼一人になんてさせられないし、そもそもいつも夕飯一緒に食べているというのに昼ごはんも一緒に食べる必要性を感じないから断るのも平気である。
「そうね。一蓮托生だから、せっかくだしそのお昼ご飯あたしもついて行こうかしら」
「へ?いやいや、別に断るの平気だよ?」
そんな、気を使わなくてもいいのに。
「別に遠慮してるわけじゃないわよ。だってあたしもあんたのお兄ちゃん会ってみたいもの」
えぇー!




