プリクラを貼っちゃいけないなんて聞いてない!(side 湊)
ゲームセンターに行った日の夜、俺は今日撮ったプリクラを眺めつつ、自分の部屋の椅子に座って今日という日を振り返っていた。
入学式の片付けが終わって解散した後、実は何通も唯花を誘うメールを作成していたのだが、納得のいく文章が書けないうちにオリエンテーションの終わりを告げるチャイムが鳴ってしまったので、メールではなく直接誘うことにした。
急いで教室に行かなければ!と思っていたけれど、道すがらいろいろな人に声を掛けられたので、少しだけ唯花の教室に着くのが遅くなってしまった。
教室に唯花の姿がなかったのでもう帰ってしまったのかもしれないと一瞬焦ったけれど、鞄は机の上に置いてあったので、すぐに戻ってくると思われる。
メールをしても良いかなとは思ったものの、入学式の日に早く帰ろうというのも悪いし、折角の唯花の時間の邪魔をしたくなかったのでじっと待つことにした。
そういう理由で廊下に立っていると、
「あ、あの、湊先輩ですよね……?どうしてうちのクラスの前にいるんですか??」
「も、もしかして苗字が同じ三枝の、三枝唯花さんって親戚か何かなんですか?」
「湊先輩!今日格好良かったです!!」
という三人の女子に話しかけられたので、山口さんにした説明と、仲良くしてあげてね、と微笑むことで唯花のクラスメイトに好印象を与えておくことにする。
きゃー!分かりました!!という台詞と共に女子は去っていき、次第に他のクラスメイトも帰ってしまったので、堂々と教室で待つことにした。
最初は唯花の席に座ってみたものの、落ち着かなさすぎたの後ろの席に座る。
そして本を読む姿勢をとる。待っているのは全然苦じゃなかったですよ、という体裁を繕うためだ。
なぜ本を読まずに読むふりをするのかというと、頭の中はどうやって唯花をゲームセンターに誘うかでいっぱいだからだ。
いろいろなパターンを考えたところ、最初は一緒に帰ろうと言い、その後今ふと思いつきましたよという感じで、折角だしゲームセンターに行かない?と誘うのが一番良いだろうという結論に達した。
そのことで長考したのに唯花がなかなか戻って来なかったので、もしかして鞄を忘れて帰ってしまったのではなかろうか、と心配したけれど流石にそれは杞憂だった。
そして考えていた通りの方法で唯花の説得に成功し、ゲームセンターに着いてから、両替機を見てまず最初に両替が必要なことを思い出し、両替をする。
俺が両替をしている間に、唯花はドレッシングのクレーンゲームの前に立っていた。
欲しいのかもしれないと思ったし、真咲に唯花のプレゼントを何にするか相談した時に実用性の高いものをプレゼントするのが良いって言っていたのを思い出したので、ドレッシングと洗剤をプレゼントすることにする。
けれど洗剤を二本取ったところで、そう何本も貰っても嬉しくないか、という結論に至ったのでやめることにする。
その後はいろいろ遊んで、最後にプリクラを撮ることが出来たのが本日の一番の成果だ。
うん。振り返ってみても今日は本当に完璧な1日だった。
絶対に守り抜いてみせると心に誓ったゾンビのゲームで唯花を守り抜いたし、ドラムをうまく叩けたので、全体的に唯花に格好良いところを見せれたのではないかと思う。クレーンゲームで景品を取れたし、一緒に太鼓を叩くことも出来たし、プリクラでは唯花側の落書き機械の画面の調子が悪かったのか唯花の顔が隠れていたのをさり気なく修正してあげる事もできた。
唯一残念な点があるとすれば、今日撮ったプリクラを他人に見えるところに使わないと唯花と約束してしまった点だ。
「うーん」
あまりにも唯花が困ったような表情でそう言うものだから、分かったと言ってしまったけれど、本当は皆に自慢したかった。
なんでダメなのかなぁ。こんなに可愛く撮れてるのに。
しかし、約束してしまったものは仕方ない。
データとしてスマホにもパソコンにも転送してあるから、プリクラとして活用しないのはもったいないなぁと思いながらも、大切なものを仕舞うファイルの中に丁寧に挟み込んだ。