プリクラなんて聞いてない!2/4
美琴のお母さんは、とてもパワフルな人で、そして美琴以上に口が回る。
あの美琴でさえも勝てないのに、そんな私が美琴のお母さんに勝てるわけないよー!と思いながら、美琴のお母さんと会話しつつ、ようやく正門の入学式の看板の前に着いた。
「はい、チーズ」
その掛け声とともにフラッシュは光り、カシャっと携帯が鳴った。
「ありがとうございます」
携帯を受け取って写真を確認すると、美琴と私が可もなく不可もなくという感じで写っていたので、この写真をお母さんに送ることにする。
その次は美琴親子の写真を私が撮り、この後お茶でもしましょうよ、という言ってくれる美琴親子に、お兄ちゃんと約束しているので、と改めて断わって、私たちは解散した。
ちらちらとお母さんと帰りながら此方を見る美琴を、背中が見えなくなるまで正門で笑顔で手を振って見送る。
このまますぐに帰ると美琴親子と遭遇するかもしれないなーと思ったので、自販機で何か買って軽くお茶をしてから帰ることにした。
貴重品であるお財布を教室に置きっ放しにするわけにはいかないと思って持ってきたけど、持ってきて良かったー!と思いながら売店の前の自販機を眺める。
うん。今日は紅茶にしよう。
ガコッという音と共に出てきた紅茶を片手に少しだけ学校をうろうろしてみることにした。校舎内はたぶん明日見学するので、校舎の外を歩くことにする。
花も咲いていて、気候も良く散歩するのにもってこいの季節だなーとは思うのだが、あまりにも付近に人がいなさ過ぎて若干怖くなってきた。
さすがに入学式の日に部活動をする人がいなかった上に、こんな日に何時迄も学校をうろうろしている人は私以外にいないらしい。
ある程度時間が潰れたし私も帰ろうと思い、教室に戻って閉まっていた教室のドアを開けて心底驚いた。
お兄ちゃんが美琴の椅子に座って優雅に本を読んでいたからだ。
誰ももう教室にいないだろうと思い、ものすごく油断をしてドアを開けたので、教室に誰かがいるという目の前の現実が予想外すぎて信じられなかった。
ドアを閉めてみたら兄が消えたりしないだろうか、と真剣にドアを一度閉めてみようかと思ったけれど、兄が此方に気がついたのでどうやらこれは現実らしい。
「唯花!なかなか戻ってこないから心配したよー!ところで美琴ちゃんは?」
パタンと本を閉じてお兄ちゃんはナチュラルにそういうけれど、その台詞はおかしい。
まるで約束をしていたかのような台詞だが、私が覚えている限り約束なんてしてないし、どうしてここに美琴の名前が出てくるのか。
「美琴は帰ったけど……お兄ちゃんはどうしてここにいるの?」
とっくに帰ったものだと思っていました。
「せっかく今日は入学式だし、唯花と一緒に帰ろうと思って。メールしようかなって思ったんだけど、教室に来てみたら唯花の鞄が置いてあったから、教室で待ってみたんだ」
なるほどー!美琴のことを聞いたのは一緒に帰れるかの確認のためだったんですね!
しかしその気遣いが今は辛い。その気遣いさえなければ美琴と帰るの、という美琴に吐いた逆の嘘が使えたのに。
うーん。けど他に断る理由が思いつかないな……。
「そうだったんだ……。というか、メールしてくれたら早く戻ってきたのに」
というか、もっと早い段階でメールしてくれていたら美琴と帰ったのに!!
「そうしようかなーって思ったんだけど、唯花の時間の邪魔をしたくなくて」
そう言う兄の笑顔は儚げで、まぁ、一緒に帰るくらいなら良いか、とつい思ってしまった。