プリクラなんて聞いてない!1/4
「では、明日からの学校生活を楽しみましょうね」
という先生の言葉と同時に、チャイムが鳴ってオリエンテーションは終了した。
がやがやと一気に教室が騒がしくなる。
とりあえずさっき配られたプリントを折りたたみ、教室の後ろのロッカーに学校に置いておくものを置き終わると、美琴の席に美琴のお母さんが近づくのが見えた。
さいぐさと、しずおかなので、美琴の席は私の後ろだ。
あ、お母さんといえば、お母さんに送る今日の写真を撮るのをすっかり忘れていた。
申し訳ないけど、美琴のお母さんに、美琴と写っている写真を撮ってもらおう。自撮り棒がこういう時に便利なんだろうなー。持ってないけど。
「あの、お久しぶりです」
そう思って美琴のお母さんに声を掛けると、ぱっと此方を見た美琴のお母さんは、久しぶりに会ったけれど相変わらず美人だった。美琴は多分だけどお母さん似だと思う。このお母さんを若くしたら絶対に美琴になるもん。
「唯花ちゃん!久しぶりね!!元気そうで良かったわー。そういえば聞いてちょうだい!美琴ったら、昨日の夜に唯花ちゃんと同じクラスになれなかったらどうしようってめそめそしてたのよー。だから、同じクラスになって私安心したわー。唯花ちゃん、これからも仲良くしてあげてね」
「お母さん!確かに心配はしたけどめそめそなんかしてないし、それは言わないでって言ったじゃん!!」
そして言いたいことを言うところもそっくりだと思う。
それにしても美琴が私と同じクラスになれるかどうか心配した、という本当に話は嬉しい。ついにやけてしまう頬を引き締めつつ、私は本題を切り出すことにした。
「それは此方も同じ気持ちで、美琴さんとはこれからも仲良くして頂きたいと思っています。ところで、もしお時間があれば、入学式の写真を撮って頂きたいのですが……」
写真は教室で適当に撮って貰えばいいよね。後ろの黒板に入学式おめでとうって書いてあるから、入学式感はあると思われる。
「あぁ!すっかり忘れてたわ!大切な入学式なのに!写真を撮ることを忘れるなんて!私ももう歳かしらね」
がくりと項垂れる美琴のお母さんだが、安心して欲しい。貴方の娘さんはそんなに入学式を大切に思ってないと思うから。だって入学式思いっきり寝てたし、起こした後も仕切りに欠伸してたもん。
「いえ、まだまだお若いですよー」
とは言えないでフォローしておく。歳は知らないけど実際若く見えるし。
「よし!張り切って写真撮るわよ!正門の所に入学式の看板あったわよね?そこでいいかしら?」
確かに正門の所に看板はあったけれど、そこまで行かなくても……。私だって正直入学式にそんなに思い入れはない。
「教室で十分じゃないですか……?」
「いや、ここは正門まで行こうよ。そしてそのまま帰ればいいじゃん。ね、お母さん」
「そうよそうよ。せっかくの入学式だもの。門の前で撮らなきゃ」
確かに正門で写真を撮った後そのまま帰るのはすごく合理的だが、もしかして三人で帰るのだろうか。三人で帰るのは私が相当気まずい。そして親子水入らずを邪魔はしたくない。
えーっと、どうしたらいい。考えろ、自分。登場人物の気持ちを考えて、もっとも自分なりのいい答えを出すんだ。
うーん。あ、そうだ!
「そうですね、せっかくの入学式ですし、門の前で撮りましょう!けど、帰りは兄と帰ります。約束してるので」
これだ!これが完璧なる答えだ。本当はお兄ちゃんと約束してないけど、こうやって言えばこの二人と一緒に帰らずに済むだろう。
「あぁ!そういえば美琴から聞いてるわよー!今日在校生代表の挨拶している本物の姿を見たけどほんっとうに格好良かったわねー。私、ファンクラブに入っちゃおうかしら」
美琴のお母さんまでを虜にする兄は歳上キラーでもあるのか……。
ファンクラブの存在の有無は知らないけど、存在してそう。
お兄ちゃんと帰るなんてそんな話聞いてないわよ、という美琴の視線を受け流しつつ、私は鞄を置いていくことで教室で約束しています感を装って、私たちは正門へ向かった。