【番外編】サンタさんが今年もやってくるなんて聞いてない!(side 真咲 &唯花)
2015年のクリスマスに更新した番外編です
(side 真咲)
「唯花のサンタさんに、俺がなるべきだと思う?」
12月の頭に、生徒会室で仕事をしていると、湊が真剣な顔でそう言った。
正直、予想外の質問だった。相談されるとしても、「プレゼントって何がいいかなー」くらいの質問だろうと思っていたのに。
なんだ、その質問。
「それはお前の親が家にいるかいないかによって変わってくると思うけど」
とりあえず模範解答を言っておくことにした。というか、これ以外の回答を知らない。
「俺の親?正月に休みたいからクリスマスは家にいられませんってメールが来たから、家にいない予定だけど」
まぁ、サンタになるべきか、と質問してくるくらいだし、いないのだろうなーとは思っていたのだけれど、本当に湊の親って忙しいんだな、と改めて思う。
うーん。しかし、それで湊がサンタの代わりをするべきか、と聞かれると、湊がそこまでする必要はないのでは?と正直思った。唯花ちゃんだって中学三年生なわけだし、そろそろサンタさんを卒業してもいい年頃だろう。
そう返事をしようと口を開いた時、
「それで、親が何の関係があるの?」
と湊がきょとんとした顔で言ってきたので、俺は開いた口を閉じた。
え、まさか湊、サンタクロースが本当に存在していると思っているのか?
いやいやいや。それはない。だって湊だよ!?あの湊が、サンタさんの存在を信じているとは到底思えない。
思えないけど不安だから、一応確認しておこう。
「湊のサンタさん観ってどんな感じか聞いてもいいか?」
とりあえずオブラートに包んで言ってみることにした。
「サンタ参観?」
だめだ、オブラートに包みすぎた。くそ。どうやら俺は相当動揺しているらしい。
「だーかーらー、湊くんのところには今までサンタさん来てたわけ?」
それだー!流石、たまに役に立つところが厄介な桐葉だ。
「来てなかったけど」
そうだよね!まさか湊がサンタさんを信じてるなんてことないよね!
「でも俺に来なかったのは、三枝家の先祖が『自分のものは自分で買えるので、その予算を別の家に回して下さい』って言ったからって父さんが昔言ってたから来なかったわけで」
湊、それお父さんに騙されてるよ!!!サンタさんが存在すると親に騙されていた俺が言うことじゃないかもしれないけど、騙されてるよ!!!
っていうか、それを信じて今まで生きてきたのか……。そういえば湊とサンタさんについて話すことなかったもんな……。なんかごめんな。
「そのルールで行くと今年から唯花にもサンタさん来ないことになるじゃん?でも今まで唯花のところにサンタさん来てたはずだから、三枝家の一員になった途端プレゼントないっていうのも寂しいかなーと思ったんだけど」
なるほど。そういう理由であの質問に繋がるわけか。
「それなら、絶対に湊くんがサンタさんになるべきだよ!!」
俺がなんと返事をしようか迷っていると、桐葉がきらきらと目を輝かせてそう言った。
「う、うん。俺もそれが良いと思う」
ごめん、湊。俺には親に『サンタがいる』と言われたからサンタをこの歳になってまで信じているお前の純粋なサンタさん観を壊すことなんて出来ない。
「もちろん枕元に届けてあげないとね!」
「いや、桐葉。それは駄目だ」
枕元だけはない。それが例えサンタさんとしての常識だとしても、ない。
「えー。なんでー?」
面白そうになる展開を否定されたからか、桐葉はぶーと頬を膨らませる。
まったく。お前の面白いこと全てに俺が乗るわけじゃないんだからな。
「なんでって、部屋に入らないことになっているルールを、サンタになったからと言って破って良いわけないだろ」
そもそも部屋に入るだけでもアウトだと言うのに、その上寝ている間っていうのはもっとまずいと思う。
「でも俺、唯花の部屋に入ってみたいし、あわよくば寝顔が見てみたいんだけど」
湊まで何言ってるの!?!?
「絶対にやめろよ!絶対だからな!!」
「はいはい。冗談だよ」
噓つき。ちょっと本気だったくせに。
「じゃあどうしようかなー。アメリカみたいにツリーの下に置いておいたらいいかな?」
うーん。でもそれって沢山のプレゼントがあるから成り立つものであって、一つだけぽつりと、しかも今年から急にツリーの下に置いてあるプレゼントに唯花ちゃんが気が付くのだろうか。気が付かなかった場合、湊がそれとなく誘導するのかと思うと、切なすぎた。
あーもう面倒だ!!結局、わかりやすいところにあればいいんだろ!!
「俺に、良い考えがある」
(side 唯花)
クリスマスの朝、目が覚めて一番に枕元を確認したけれど、勿論プレゼントはなかった。
それはそうだよね。だってお母さんいないし。
それでも今日はごちそうが食べられるし、お兄ちゃんとプレゼントを交換する約束をしているし、テレビも世間も浮かれているし、やっぱりクリスマスの朝はすごくわくわくする。
とりあえずちょっとおしゃれな恰好に着替えて、リビングに向かおうとドアを開いたとき、こつんと何かドアに当たる感覚があった。
廊下に何か荷物が置いてあったのだろうか、と慌てて確認すると、そこには綺麗に包装された箱が置いてあった。
もしかして、と箱を手に取ると、メッセージカードも上に置いてあって、そこには流暢な筆記体で「Merry Christmas from your Santa」と書いてあった。
うわー!サンタさんと言う名のお兄ちゃんからだー!まさかお兄ちゃんがこんなことをするなんて思ってもみなかった!知ってたら私もしたのに!!
ど、どうしよう。このプレゼントを喜ぶのが一番のお返しなのだろうけれども、「ありがとうお兄ちゃん!」ではこの最後のサンタよりが無駄になってしまう。これはあまりにもそれは直接的すぎる。
でもお兄ちゃんに「サンタさんありがとう」と言うのも直接的すぎるし、かと言って外に向かって「サンタさんありがとう」と叫ぶのは遠回りすぎる。
……うん。仕方がない。恥ずかしいけれども、ここはサンタさんになってくれたお兄ちゃんの顔を立てることにしよう。
階段を駆け下りて、ドアをちょっと乱暴に開けて、お兄ちゃんを視界に捉えて、笑顔で一言。
「お兄ちゃん!サンタさんが来た!!!」
お兄ちゃんはそう言ってはしゃぐ私の姿を見て、今サンタさんが来たような、そんな嬉しそうな顔をした。