神様聞いてください。(side 湊)
緊張している唯花を何とか励ましたい、そう思ったら、思わず手を掴んでいた。
そして掴んでから何てことをしてしまったんだ、と思った。
やばい。他人に対して事前に申告のない身体の接触は俺の中では嫌われる行為だ。
唯花に嫌われたかもしれない。そう思って恐る恐る唯花を見たところ、驚いたようではあったが特に嫌っている様子はない。ばっと手を離されることもなく、拝むように手を握ると、決意した表情で試験会場へ向かっていった。
その姿を見えなくなるまで見送ると、真冬なのに大汗が出てきた。
危なかった……。今回は許してもらえたかもしれないけど、次回は嫌われてしまうかもしれない。
もっと、気を引き締めて生きなければ、と改めて思うと俺は学校の近くの神社へ向かった。
唯花の受験の合格祈願をするためである。
自分のことは自分で何とかするしかないと思って普段は神頼みなんてしないのだけれど、唯花の受験のことで最後に俺ができることは、神に祈ることしかないな、と思って初めて神社に来た。
神社の作法について書いてある看板を読み込んで、その手順通りにことを進めていく。
お賽銭か……。
一万円で足りるかな、と少し心配になったけれど、現金の持ち合わせはこれ以上なかったので一万円にする。
どうか唯花が普段の実力が出せますように。あと、健康で交通事故や事件に遭うことなく健やかに過ごせますように。
というような内容を5分間くらいひたすら祈った。
祈り終わってはぁ、と吐いた息は白かったけれど、唯花の受験が終わったらもうすぐ春が来るんだな、とふと気がついた。
春が来たら、唯花と出会って一年になる。
今改めて自分を見つめ直すと、唯花と出会って俺は変わった。
まず第一に家事なんてしたことなかったけれど、家事が出来るようになった。剣道を始めて強くなった。褒められることの嬉しさを知った。悩むということを知った。誰かのために何かをしたいと思った。他人を喜ばせたいと思った。何かを可愛いと思った。
この一年で様々な感情を、俺は知った。
この一年は、今まで生きてきた中で一番忙しくて、一番大変で、そして一番楽しかった。
もっとこの先俺は唯花と関わることでもっと沢山の事を知っていくのだろう。思うのだろう。
良いことばかりじゃないのは分かっているけれど、それがすごく楽しみだった。
最後に、唯花を出会わせてくれたことに感謝して、俺は神社を後にした。