お寿司なんて聞いてない!4/4 (side湊)
「お兄ちゃんがどのケーキが好きか分からなくていろいろ買ってみたんだけど、お兄ちゃんはどのケーキが食べたい??」
そう決意して、作ったロイヤルミルクティをリビングのテーブルに持っていくと、椅子に座ってケーキを前に目を輝かせながら、唯花はそう言った。
「唯花が選んだ残りでいいよ」
「本当!?あ、でもどれも好きなケーキだから凄く迷うし、先にお兄ちゃんに決めてもらった方が良いかも……」
うんうん悩む唯花も超可愛い。
「じゃあ、全部半分に切って食べる?」
「……!!そうする!!」
ケーキにナイフを入れるその姿は真剣すぎて、本当は好きなだけ食べていいよって言いたかったけれど、真剣にケーキを切り分けている唯花の姿が可愛くて、言えなかった。
「そういえば唯花はどこの高校を受験するの?」
ずっといつこの話題を振ろうかと機会を伺っていたけれど、今がその時だろう。
「最初は弥生高校にしようと思ってたんだけど……今は睦月高校にしようかなって思ってる。私の成績だと難しいかもしれないけど……」
どんな心境の変化があったのか凄く気になるけれど、特に説得の必要なく睦月高校に来てくれるというのなら、文句など何一つなかった。
「大丈夫だよ。家事も全部僕がするし、勉強も全部僕が教えるから」
「え、いや、でも、お兄ちゃんも忙しいと思うし、美琴の通っている塾に通おうかと思ってるんだけど……」
「大丈夫。しばらく剣道部の活動は少なめなんだ」
そう言っても唯花は何と返事をしようか迷っているようだった。
「唯花は、僕が剣道のインターハイで優勝出来るように、全力でサポートしてくれた。だから今度は僕が唯花を全力でサポートしたいんだ。だから、お願い」
よく考えたら、他人にこれほど懇願してお願いなどと言ったのは、初めてだった。
今までこんなシーンをテレビで見てきて、こいつにはプライドなんてないのか?と思っていたけれど、本当に手に入れたいものがある時には、プライドなどあってないようなものだということを、今日初めて理解できた。
「……分かった。塾に行くのもお金もったいないなって思っていたから、お兄ちゃんに教えてもらえるなら助かるかも、しれない」
お金のことなんて、気にしなくて良いのにって言いたいけれど、自分にとって都合の良い話なので、ここは無視することにする。
「じゃあ、ケーキ食べようか。あぁ。紅茶冷めちゃったから、温め直してくるね」
温めなおしている間に、唯花も気持ちの整理ができたらしく、さっきの苦悩に満ちた表情から、いつもの笑顔に戻っていたので俺は安心した。
「「いただきます」」
そう言って食べたケーキは唯花が勧めるだけあって普通に美味しかったのだけれど。
「あー。ケーキ美味しい。幸せ……」
唯花がそんな台詞を言ったので、嫌いになった。
そんなにケーキ好きなんだ……。お菓子を食べている姿は割とよく見るんだけど、ケーキを食べている姿を見たことなかったから、知らなかった。
今度学校の帰りに美味しいケーキ屋さんを探して買って帰ろうかとも思ったけれど、唯花が俺の作ったもの以外を褒めるのはいやなので、今度の休みににケーキを焼くことにしよう。
これより美味しいケーキの作り方を研究しなければならない。
というか、将来パティシエになるのもいいかもしれないなぁとケーキを美味しそうに食べる唯花を見ながら思った。