優勝するなんて聞いてない!3/3
「それにしても、お兄さん、三ヶ月でインターハイ優勝ってやばいわね……」
「うん……。本当に凄いと思う」
というか、あり得ないと思う。
「あれじゃない?『ど素人のイケメンが三ヶ月で剣道のインターハイを優勝した話』とかいうタイトルで本書けば売れるんじゃない?」
自分で言った冗談に美琴は自分で大笑いしていた。
まったく、他人事だと思って!!!
「書かないし書かせないよ!というか実践してもうちの兄以外絶対に優勝できないから、何の参考にもならないよ!!」
「まぁ、確かに……。それで?その報告だけなら良かったね、って言って電話切るけど」
この人、言いたいことだけ言って電話を切る気だ……!
「いやいや、本題はここからなんだけど。どうお祝いしたらいいと思う?さすがに優勝って聞いたら普通のご飯じゃまずいかなって思うんだよね。……赤飯でも炊けばいいのかな?」
「赤飯!?いや、炊きたいなら炊けばいいと思うけど、炊きたくないならそうだね……。お寿司でも取れば?」
それだ!!!
「お寿司!!その発想はなかった。いいね。そうしようかな」
お寿司なら簡単だし。そういえばお母さんとお義父さんにもいるかどうか聞かなきゃいけないな。
多分いらないと思うけど。
「あとはケーキでも買えばいいんじゃない?インターハイ優勝なんてそうそう出来ることじゃないし」
ケーキ!!なんて甘く芳しい響き。
「そういえば私テレビで見て凄く食べたかったケーキあるんだった。そこに買いに行こうかな。平日じゃないと行列が物凄くできるらしいから夏休みじゃないと買えないし」
すっかり忘れていたけど、凄く食べたいんだった。丁度いいし、この機会に買いに行こう。
「そこまで張り切らないほうが良いと思うけど……。まぁ、それは唯花の判断に任せるわ。あー!!!そういえば、今日弥生高校の噂、聞いたんだけど、弥生高校、ここ数年荒れてたらしくて、今年から先生達が物凄く厳しいらしいわよ」
「まじで?」
「まじで。校則とかもすっごく厳しくて、大変らしいわよ。だから一緒の睦月高校に行こうよ。なんで睦月高校いやなの?」
「だって睦月高校、レベル高すぎるし。それに弥生高校の方が模試の判定的にも安定してるし、通いやすいし、無難なんだもん」
如月高校も良いなぁとは思っていたけれど、如何せん遠すぎる。あんなに通学時間掛けられない。
しかし、厳しくなった、というのは見過ごせない話だった。真面目な人間である、とは自負しているが、厳しいのが好きなわけではない。
「まぁ、もう一回何処を受験するか考えてみる」
「いい返事、期待してるわ」
そう言って美琴は電話を切った。
はぁ。高校どうしよう。今までずっと弥生高校のつもりで安泰な気分になっていたけれど、睦月高校のほうが良いだろうか。
そりゃあ、美琴もいるし、自由で生徒の自主性を重んじる高校である睦月高校の方が良いとは思うけど。
睦月高校にはお兄ちゃんいるしな……。いや、それはマイナスポイントに数えるほどのことではないか。
何となくお兄ちゃんと距離がとりたいだけであって、別に今までになにか嫌なことをされたことなんてないのだから。何となく怖いだけで。
うーん。あとは勉強面が一番ネックかな。行きたいと言ったところで、学力が足りてなかったら行けないわけだし。
それはまぁ、ギリギリまで頑張ってみて考えるべき事柄か……。
あとは覚悟次第なわけで。はぁ。うん。
明後日また考えることにしよう。頑張るにしろ頑張らないにしろ、明日までの充電期間は思いっきり充電しないと、この先、頑張ることすら出来ないから。
とりあえずお兄ちゃんが帰ってくる前に部屋の片付けをしなきゃなぁと、リビングに散乱している漫画を見て思った。