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141.こんなシスコンになるなんて聞いてない!完


「それで、唯花がしたかった話ってこの話?」


そうだった。それだけでは、ないのだった。


「あと、もう一つあるんだけど、まだ時間大丈夫?」


というか、今までの話は言わば前座も前座。いや、自分の夢の話が前座というわけではないのだけれど、今から話す方の話題の方が一応本題なので。


「全然大丈夫。というか、話が終わったら唯花と一緒に帰るって言ってあるから、生徒会のことは気にしなくて良いよ」


そう、だったのか。いやまぁ別に今日話さなくてもいいんだけど、今日という特別な日じゃないと言うタイミングをどんどん逃し続けてしまいそうで。


「あの、階段から落ちた後に、お兄ちゃんが、私のこと好きって言ってくれた件なんだけど」


自分の本当の気持ちを言うのなら、今日しかないと思った。


「あぁ、えっと、うん」


急に話題が転換したのもあって、お兄ちゃんの返事も珍しく歯切れが悪い。


それもそうか。私も今までなるべく触れないようにしていたし、お兄ちゃんがその話を再び口にすることはなかったのだから。


誘拐事件の後、お兄ちゃんが格好良すぎて見える件についても向き合ってみた結果。


これはもう答えを出すしかないという結論に至った。


「あの、その、私も、お兄ちゃんのことが好きです。好きなんだけど、お兄ちゃんが好きって思ってくれている気持ちと一緒だとは、今は断言できない・・・・・・」


というか、考えてみて思った。


お兄ちゃんの愛は大きすぎるし重すぎる。


好きになってまだ一ヶ月くらいの私が同じ思いで好きですとは、到底言えなかった。


だから、もう少しだけ時間が欲しかった。


「でも、いつか私の好きが、お兄ちゃんと一緒って言える日が来たら、その時は――」


『付き合って下さい』という言葉の続きは出てこなかった。


「その続きは、言える日が来てから言ってほしいかな」


しーっと人差し指を唇に当てたお兄ちゃんに、言葉の続きを閉ざされてしまったから。


「待つよ。ずっと。これから新しい道に進むって決めた唯花を、応援するって決めたから」


お兄ちゃんの告白から時間が経った上に、さらに待ってほしいという大それた願い事なのに、お兄ちゃんは嫌な顔どころか、甘く蕩けるような顔で微笑んだ。


「あんまり、待たせないですむように、頑張るね」


沢山、沢山恩返しがしたい。私が幸せにしてもらった以上に、幸せになってほしい。


そのためには、私が二本の足でしっかり自立することが大切だと思った。そうじゃないと、お兄ちゃんにばっかり寄りかかってしまうから。


「うん。楽しみにしてる」


そう言って最高に幸せという表情のお兄ちゃんと指きりをした。


・・・・・・いつからお兄ちゃんはこんな表情で私に微笑んでくれるようになったのだろう。


今年の花火大会から?いや、でもその前から、それこそ私がこの学校を受験すると決めた時には、すでにお兄ちゃんは最初、出会った頃のお兄ちゃんではなかったと思う。


初めに出会った頃のお兄ちゃんは、微笑んではいるものの、その笑顔に感情はなくて、そして私に対してもずっと距離を置いていた。


それが、そう、そうだ。あの日。


スーパーマーケットに1人で買い物に行ったお兄ちゃんを、雨が降り始めたからと迎えに行った、あの日から。


私たちの距離感は少しずつ変わっていったのだ。


この先私一人で生きていくんだってずっと思っていたと思うし、お兄ちゃんが、勉強を教えてくれなければ、高校だってこの高校に通うことはできていなかったかもしれない。


絵を描くことだってきっと大人になったら止めるんだと思って真剣に向き合わなかった。


お父さんの件だって上手く乗り越えられなくてもっと傷ついていたと思う。


あの日迎えに行かなければ、きっと私は今日という日をこんな気持ちで迎えられなかったし、この先の未来を今のように上手く思い浮かべることができなかっただろう。


もしも今、傘を持って行く前の自分に何か伝えられるとして『その傘を持っていった未来の私は誰かを頼ることを覚えるし、美大に行って絵を学びたいって思うよ』って言っても、絶対のあの日の私は信じないと思う。


けれど私のことだから、その話の内容を信じなくても、お兄ちゃんが濡れたら困るよねと思って傘は持っていくのだろう。


そしてその後のお兄ちゃんの変貌っぷりにこう言うに違いない。


「こんなシスコンになるなんて聞いてない!」って。

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