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140.こんなシスコンになるなんて聞いてない!5


「唯花・・・・・・」


何処かに売られちゃうんじゃないかとか、テレビで大ニュースになってずっと世間に晒されるのかなとか、警察に周囲を包囲されて、逃げられなくなったお父さんと無理心中になるんじゃないかとか、ずっと色んな事が頭の中をぐるぐる巡ってた。


「どうすればよかったんだろうっていう後悔の後に、この先どうなっちゃうんだろうって思った時に、一番に思ったのはなんでもっと絵を描かなかったんだろうってことだったの」


階段転落事件の時は、突き落とされた瞬間はとにかく頭を庇ってうまく落ちなければとなけなしの運動神経を発揮させる方に集中していたし、その後特になにか大きな怪我が無かったこともあって、打ち所が悪ければ死んでいたかもしれないということ事実を考えないようにしていた。


私の中ではそんなに大事じゃなかったって思うことで、心を守っていた。


一週間の入院の間にカウンセリングも受けたり、ゆっくりできたことも良かったのかもしれない。


けれど、今回の誘拐事件は違った。怖い時間が永遠のようにも感じられて、ずっとずっと後悔ばかりしていた。


今回の事件の後にも、カウンセリングは受けたけれど、今回ばかりはカウンセリングがあまり効いたようには思えなかった。


「それで、文化祭準備期間は思いっきり絵を描いてみたんだよね。勉強も正直あんまりしないで思いっきり。前まではさ、正直絵を描いている時って下手だなぁって思っちゃってどちらかといえば苦しかったり嫌になることの方が多いんだけど・・・・・」


だから今まではデッサンの基礎とか、人物画とか描きたくなかった。比較的得意な風景画が好きだった。でも、得意な風景画でさえも努力なんかあんまりしなくて、どうせ趣味なんだから描ける範囲で描ければいいんだって思ってた。


「でも、今回はそれさえも楽しくって。私って絵を描くのこんなに好きだったんだってびっくりしちゃった」


そう思ったら、ずっと心にしまってきた願いを、口に出してもいいような気がしてきた。


「だからね、大学は美大に行きたい。今から目指すなら美術の予備校とか行かないといけないと思うし、美大目指すなら基礎から勉強し直さないといけなくて、色々大変だとは思うんだけど、挑戦してみたいって思ったんだ」


そう思いきって言うと、お兄ちゃんは驚いたように目を見開いた。


やっぱり度の過ぎた願いだと、思われてしまっただろうか。


「いつ唯花がそう言ってくれるんだろうって家族全員で思ってたよ」


え、そんなことを家族全員で思ってたの!?そうなの!?


「まぁ、唯花が決めた道なら違う道でも、皆で応援しようって結論ではあったんだけど、それでもうちの家族みんな唯花の描く絵が好きだし、唯花が望む進路に進んでほしいよねって話はしてたから。だから心配しなくても皆応援するよ」


そっか、そうだったんだ。


私一人だけがずっと私の夢に気が付いていなかったんだ。


「うん、ありがとう」


私が気が付くまで見守っていてくれて、ありがとう。


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