137.こんなシスコンになるなんて聞いてない!2
「そんな深いため息を吐かなくても。というか、そんな状態で家でどう過ごしてるの?」
確かに、美琴が疑問に思うのももっともだろう。
「とにかく粗相がないように過ごしてる」
めちゃくちゃ最新の注意を払っている。もうこれ以上文化祭と生徒会選挙の準備で忙しい兄の手を煩わせるわけにはいかないのだ。
「そういう事が聞きたかったわけじゃなくて」
ジトっとした目で見られるけど、分かってるよ。
「夕飯と茶碗洗い以外はなるべく部屋で過ごしてるけど、正直前とそんなに生活スタイル変わってない」
一緒の空間で過ごすのは本当に心臓に悪すぎるけれど、今までそうしてきたのに急に避けるわけにも行かないわけで。
「前から部屋に引きこもり気味で良かったわね」
本当に。
「でも、部屋での過ごし方は変わったかなぁ。なんかもうほんとに色んなことを考えちゃって、アニメとかゲームとかの話に集中できないから、今はとにかくデッサンの基礎してる」
線をまっすぐ引くところから始めて、丸を書いたり四角を書いたりと、今まで疎かにしていた基礎練習を、部屋に戻ってからはひたすら取り組んでいた。
「はぁ!?毎日残れる時間ギリギリまで美術室で文化祭の絵を描いてるのに、さらに家でデッサンの基礎までしてるの!?」
そうなりますね。文化祭の絵も新しく描きたいって思ってしまったから、また一から新しい絵を描いているのだった。
「いや、でも家では考え事の方がメインだから、そんなに根詰めては描いてないよ」
寧ろ集中して描いてるときの方が珍しいかもしれない。
「・・・・・・大丈夫?」
いつもは長台詞の美琴のシンプルな大丈夫の言葉は、本当に心配してることが伝わってきて、この友人にはいつもものすごく心配を掛けていて申し訳なく思った。
「大丈夫!色々考えないといけないなって思ってるけど、考えるのは文化祭までにしようって思ってるから」
それまでの間だったら頑張れると思う。
「何を考えてるのかは知らないけど、湊さんとのことだったら、別に期限があるわけじゃないんだから、無理に文化祭までとか区切りつけなくてもいいんじゃない?」
それもそうなのだけれど。
「でも、区切りのない悩み事ってきついから」
いつ終わるか分からないっていうのは、予想以上にきついってことを、お父さんにお金を渡している間中、ずっと思っていた。
「だから、むしろ期限が決まってないものは区切れるなら区切った方がいいって思ったんだ。それに、誘拐された時に、すっごく絵が描きたいなって思ってたのもあって、今思いっきり絵に取り組み始めたって感じかな」
なんで今まであんなに時間があったのに絵を描いてこなかったんだろうって、すごく後悔したというか。
「そっか。ならいいけど」
そう口では言いつつも、心配と顔に書いてある美琴のことがやっぱり大好きだなぁって思う。
こんな素敵な友達、私には勿体ないくらいだ。
「うん。いつもありがとう。何かあったらちゃんと美琴に相談するよ」
安心してほしくて、笑顔で誠意をもってそう伝えると、美琴は少しだけ安心したようだった。




