136.こんなシスコンになるなんて聞いてない!1
「マジもう無理・・・・・・。今までどうやってお兄ちゃんと一緒に暮らしてたのか分かんない」
あの日、お兄ちゃんに助けてもらった後から、私はすっごく困っていた。
「そうね、それはあたしもずっと不思議に思ってたわ」
オタクであることが兄にバレたことではない。
いや、それもダメージ大きかったけど!
瀬川さんが救出劇の三日後くらいに、買い戻し損ねたものがないかを確認してくださいって机の上にゲーム機とかきらり夏川のグッズとかブルーレイとかをお兄ちゃんの前で並べてくれた時にはもうほんと止めてくださいって思ったけど!
その日の夕飯の時に「唯花が好きって聞いて、一ノ瀬先生の作品読んでみたけど、きらり夏川は読んでなかったから今度読んでみるね」って言われた時の私の気持ちを140字以内で述べてほしいけど!
でも今どきイケメンがオタクでもゲーマーでもいいじゃないかって思う事で心の均衡を保っている。
どうか、お兄ちゃんが人生を踏み外してしまうほどハマりませんように。
いや、ハマってくれてもいいんだけど、その始まりが自分になるのかと思うと、心が痛むんですよ、何となく。
それはさておき。
「お兄ちゃんが本当に格好良すぎて困る」
私の最近の一番の困りごとはこれだった。
お兄ちゃんに助けられてから、私はどうにもおかしい。
美琴になにかあったらお兄ちゃんに連絡してほしいとは伝えていたけれど、まさか本当に助けに来てくれると思っていなかったから。
あの家に颯爽と助けに来てくれたお兄ちゃんはまるで白馬の王子様みたいで、それはもう大変格好良かったのだ。
それからはお兄ちゃんの前でどうやって息をしていたのかさえも思い出せない。
それ以上に一緒にご飯を食べないといけない時間は地獄だ。今までどうやって食べてたの私。ご飯食べてるとき変じゃないかなってずっとそればかり考えてしまうけど、味が分からない・・・・・・。いや、味は分かるな。
相変わらずお兄ちゃんが作ってくれる夕飯は美味しい。
「別にあの日の前と後で湊さんの顔が変わったわけじゃないのにねぇ」
ニヤニヤ笑う美琴の言いたいことは分かる。
そう、兄の顔は変わっていないのだ。変わったのは受け取り手の気持ちだけで。
つまり、今まではお兄ちゃんが遠い存在だったので、正直イケメンだろうかなんだろうが、自分には関係ないと思っていた。どうせ数年後には一年に一度でも会えばいい方くらいの関係になると思っていたから。
けれど、本当に心の底から困っていた時に助けに来てくれて、しかも私が望むことを叶えてくれたら、否が応でも意識してしまう。
吊り橋効果だって私の中のオタクが言うけれども、それでも私はもうこの吊り橋から降りれないのだ。
すごい困難な吊り橋を渡ろうとしているなぁと思わずため息が深く零れた。
 




