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135.こんな文化祭になるなんて聞いてない!11 (side湊)

「怖かったね、唯花。大丈夫??」


俯いてソファに座る唯花の震えている手をそっと握って、安心してもらえるようにぎゅっと握る。


まだ夏服だったことが災いして、唯花の両腕にはロープで擦れた跡が見えた。


「・・・・・・怖かった。怖かったよ、お兄ちゃん」


そう言って泣く唯花にハンカチを貸して、隣に座って背中を宥めるようにトントンと叩く。


しばらくすると、しゃくりあげる声は聞こえなくなったものの、顔からハンカチを離すことはなかった。


まだ少し落ち着いていない様子ではあるが、どうしても早めに言わないといけないことを思い出してしまったので、伝えることにする。


「あぁ、そう言えば、ごめん。唯花の話も気持ちを確認しないで話を付けちゃった」


唯花に少しでも注意を向けたら、心配で仕方が無くなると思って、意識的に注意を払わなかった結果、唯花の気持ちを考えると言う、一番大切なことを忘れていた。


「一旦さっきの結論は忘れてもらっていいから。唯花が望むなら今ならどうにでもなるから、正直に言ってほしい。もしも刑務所に入ってほしいなら今すぐに警察署に出頭するように瀬川さんに言うし、それ以外でも何でも大丈夫」


冷静なつもりがまったく冷静じゃなかったらしい。


「ううん。お兄ちゃんが出してくれた結論が一番、私が望んでいたことだから、その提案をしてもらってすごく有難かった。でも・・・・・・そのお金のこととか考えると、お母さんとお父さんに今回の件を話さないといけないよね」


なんて言ったらいいんだろうと思案している唯花には悪いけれども、言われた方が逆に困る。



「あ、その件なんだけど、今回の件の費用は全部僕の個人的なお金から出すように瀬川さんに言ってあるから気にしないで」


特にお金の件で言わないといけないと思っているのなら、何一つ問題はなかった。


「個人的なお金・・・・・・?」


個人的なお金と言っても、唯花のようにお小遣いとかお年玉を貯めて作ったお金ではない。


さすがにそれだけで賄える金額とも思えないし。


「そう。父さんから引き継いだ会社とか、自分で立ち上げたのとかいくつか会社持ってるし、投資もしてるから金銭的な意味では全然大丈夫。というか、むしろ今回の件が父さんにバレると色々大変なことになるから、言わないでもらえると助かるんだけど」


・・・まぁ、言わなくても父さんにはバレてるかもしれないけれど、正式に話を伝えてこの件が公になる方が不味い。


「ん・・・・・・?事情はよくわかんないけど、お兄ちゃんがそういうなら、分かった」


そう口では言っていたものの、イマイチ納得していないような表情だったので、さらに唯花の気持ちに寄り添えるように、思案する。


「まぁ、お金の件は吉岡さんが働きだしたら時間を掛けて少しずつでも返してもらおうと思ってるし、唯花は気にしないでよ」


これ以外に思いつかずに言った言葉であったが、どうやら正解だったらしい。ようやく唯花が少しほっとしたような表情になった。


そう言えばお金の件で思い出したけれど、唯花が売ったものを取り替えすように瀬川さんに後でメールを送らなければ。


それから、まだ誰にも連絡してなかったことを思い出し、代表として真咲に電話をして無事を伝える。美琴ちゃんも一緒に居て、唯花に電話を替わって話しているうちに、唯花の気持ちもようやく落ち着いたみたいだった。


「そろそろ帰ろうか」


玄関の靴箱の上にはしっかり鍵が置いてあった上に、外にはタクシーまで停まっていたので、さすが瀬川さんだと思いながら、唯花と一緒にタクシーに乗った。


唯花と家に帰ったら、桐葉のバイクを回収しないといけないけれど、ぼんやりと窓の外を眺めている唯花のことを思うとすぐに1人にするのも心配だと思う。


そんなことを考えていると、『バイクは部下に回収させて、今日中に桐葉の家に送り届けておきます』というメールが瀬川さんから届いた。


送り届けてくれるのはありがたいけれど、鍵の問題があるんじゃないか。そう思い、鍵を入れていたはずのポケットを探るものの、鍵はいつの間にか無くなっていた。


この状況で、瀬川さん以外に鍵を抜き取れる人なんていないわけで。


元々うちの父親が右腕にするくらいの優秀な人ってことは知ってたけど、ピッキングもスリも得意っていうのは知らなかったな・・・・・・。幼いころからの知ってる人だけれど、きっとまだまだ知らない一面があるんだろうなぁと思う。


きっと唯花にもまだまだあるのだろう。


そのことを強く意識したのは、唯花が売ったというものを瀬川さんが回収してくれた時だった。


ゲーム機にアニメのブルーレイ、それからキーホルダーなどのグッズ。


それらは紛れもなく今までの唯花が俺に見せてこなかった一面であった。

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