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134.こんな文化祭になるなんて聞いてない!10 (side湊)

「あんたも俺が悪いっていうのかっ?みんなみんなみんな俺が悪いって言いやがる。みんな家族のことを考えてやれっていうけどな。誰か俺のことも考えてくれたことあったか?はっ。誰も考えちゃくれねぇ。誰も俺のことなんか考えてくれないのに、俺が誰かのことを考える必要があるのか?」


むしろその発言をした人誰もが、あなたのことを考えてそう言っていると思うのだけれど、違うのだろうか。


でも、そんなことはどうでもいい。


「貴方こそ唯花の気持ちを考えたことがあるんですか?・・・・・・少なくとも、ここしばらくの唯花は貴方のことを考えてましたよ。自分が大切にしていた物まで売ってまで、貴方にお金を作ったんです」


ここまで唯花はしたというのに、それなのに何もしなかったと言われるのは、思われているのは心外だった。


「けど、それ以上はしてくれなかった!」


吉岡は理解してくれるだろうと期待してそう叫ぶけれど、ただただ不愉快になるだけだった。


「それ以上ってなんですか?いくら僕の家が金持ちだろうと、お金の管理はきちんとしているので、勝手に口座から引き出されていたらすぐに気が付きますよ。それにお金が欲しいって言われたら理由も聞きます。唯花の立場で考えると『実の父親に貸すため』なんて理由、義理の家族には言えませんし、言ったところで貸してもらえるなんて到底思えません」 


まさか吉岡は、我が家ではその辺の部屋の隅にお金をぽんと置いて管理もせず放置しているとでも思っているのだろうか。


「つまり、唯花は唯花のできる範囲で最大限の事を貴方のためにしていたんです。それでも何もしてくれなかったとでも言うつもりですか?」


理解してもらえるとは到底思っていなかったけれど、少しでも唯花の気持ちを考えてくれたらと思っていた。


「・・・・・・うるさい、うるさい、うるさい!」


しかし、どうにも理解してもらえないようだ。


「はぁ・・・・・・。まぁ、警察に今回の件を全て洗いざらい話して、貴方に刑務所の中でしっかり罪を償ってもらっても良いんですよ」


いや、理解した上で現実を直視したくなくて、理解していないふりをしているのか。


「っ!やっぱり警察を呼んでるのか!?くそがっ」


現実をチラつかせてみると、焦ったように吉岡が少し動きを見せたので、竹刀から手を離して吉岡との距離を瞬時に詰め、手を捻りあげた。


力加減を間違えて吉岡は痛みに唸り声を上げているが、特に気にしないことにする。


「呼んでないですし、動かないでください。唯花の前で一生の心の傷になるようなことをさらにこれ以上しないでください」


警察に捕まるくらいなら、ポケットに隠し持っていたナイフで死ぬみたいなことを、唯花の目の前でするのはやめてほしい。


これ以上話をしていても仕方がないし、もう終わりにする時なのかもしれない。


「本来なら警察を呼ぶしかなかったのですが・・・・・・。今回だけは、僕がお金を貸してもいいです。条件付きですが」


奇跡的に、最善の道へ導くことができたので。


「・・・・・・条件ってなんだよ。まさか唯花に謝ることとか言わないよな」


そう言ったら素直に謝るのだろうか。


「違います。条件で謝られたって、唯花が傷つくだけですから」


でもそうやって謝られたとしても、唯花は決して喜ばないと思った。


「条件というのは、そこの瀬川さんと一緒に、人生を立て直してください」


吉岡はそんなことをまさか言われるとは思っていなかったようで、呆気に取られた表情を見せた。


「は・・・・・・?」


というか、その話をするための要員として瀬川さんを連れてきたのだが、ピッキングをしたり唯花を助けたりと大活躍しすぎて、このために連れてきたと言う方が正直おまけみたいになってしまった。


「詳しいことは瀬川さんと一緒に決めてもらいますが、まずは弁護士さんに借金の相談をしてもらって、借金の件を解決した後は、貴方がその闇金の方々との繋がりを断てるように、住む場所を変えたり仕事を紹介したりして自立していけるように僕と瀬川さんとで支援していきますってことです」


バイクで瀬川さんを待つ間にあらゆる可能性を考えて調べた結果、この条件を提示するのが一番最善だと思った。


「・・・・・・要するに借金を返してやるから、お前の部下だかなんだか知らない奴に監視されながら唯花から遠く離れた場所で生きろって言うのか?」


すっごく捻くれた受け取り方をしてくるけれども、本当にそう言う意図は全くなくて。


「聞こえ方によってはそう聞こえたかもしれませんが、違いますよ。ギャンブルもお酒も、止められないんですよね・・・・・・?僕は専門家じゃないので、正しいかは分からないのですが、貴方は依存症の可能性があるわけで、依存症ならば治療を受けて、貴方の人生を歩み直してほしいだけなんです」


本当にこの人のことが好きじゃないし、今後の人生で関わりたいと思う相手ではないけれど、でも借金を代わりに返してそれで終わりという前回の父親と同じ道を踏んだら、結局再びこの人が借金を作る未来しか見えなかったから。


だから違う道を提案したかった。この人が立ち直るまで関わって、唯花にしたことをいつの日か思い出して欲しいと思った。


「ちっ・・・・・・。分かったよ。この状況を何とかしてくれるって言うなら、なんでもする」


色々考えを巡らせていたようだが、窮屈な生活になるかもしれないものの、この条件が好条件であることは間違いないため、この提案を受け入れることにしたのだろう。


「交渉成立ですね。・・・・・・じゃあ後は瀬川さん頼んだ」


捻り上げていた手を離すと、吉岡は痛そうにプラプラと手をしばらく振ったあと、唯花に何かを言うわけでもなく、そちらも見ずに玄関の方へと行ってしまった。


「ではまた後ほど連絡しますね。失礼します」


後を追いかけるために素早く挨拶をした瀬川さんもリビングを去って、ようやく俺は唯花と向き合うことができた。

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