130.こんな文化祭になるなんて聞いてない!6 (side湊)
スマホから3Sのシステムにログインして、唯花の位置情報を確認する。
どうやら、カフェから車で20分程走った場所にいるらしい。航空写真で確認したところ、古い一軒家のようだった。
こんなところに時計のみを捨てるということはおそらくないと思うので、唯花はきっとここにいるのだろう。
場所が分かれば、迎えに行くだけだ。
生徒会の後に少しだけ部活に行こうと思っていたこともあり、鞄以外に部活の道具がここにあったのは幸いだった。
財布をポケットに入れて、竹刀の袋を手に持つ。
「桐葉、お前のバイク借りてもいい?」
必要な物はあとは鍵だけ。
「ぎっく。どうして俺がバイク通学していることがバレてるんですかね」
校風が自由な我が高校でも、バイク通学は流石に危険だから禁止されているけれど。
「少し前に古いけど良いバイクをお父さんから買ったって言った後から、毎朝バラバラの時間に教室に来るし、何度か電車が到着したとは思えない時間帯に明らかに来てたから」
柚葉は絶対にバイクで来てるんだろうと思ってましたし、必要な時が来れば借りようと思っていました。
「名探偵様には参りましたっと。ってか、湊ってバイク乗れるの?送っていこうか?」
鍵をポケットから取り出した桐葉はそう言ってくれるけれど。
「16になった時に瀬川さんから教えてもらって免許取ったから大丈夫」
それに、身分証としていつも財布に免許証を携帯しているので、何も問題はない。
免許あったら色々便利だからって瀬川さんにバイクの免許を取らされた時には、絶対にこの人ツーリングに一緒に行きたいだけだろって思ったし、実際に何度か連れ回されたけど、今日という日を迎えた今は、心の底から免許を取っていて良かったと思う。
「桐葉には生徒会の仕事をお願いしてもいいかな。生徒会室を留守にするわけにもいかないし」
「了解。学校裏すぐの白いアパートの駐車場借りてて、そこに置いてある。バイクの写真送っとくね。黒いバイクだから、白馬の王子様ってわけにはならなくて悪いけど」
桐葉から鍵を受け取って、生徒会室から飛び出しつつ、礼を言う。
「ありがとう。恩に着る」
階段を段飛ばしで駆け降りて、校舎から飛び出した。
あの学校裏のアパートなら裏門が一番近いため、裏門へ全力疾走する。
その間にワイヤレスで通話できるように片耳にイヤホンを付けつつ、瀬川さんへ電話を掛けた。
「どうも坊ちゃん。お疲れ様です。どうかしましたか」
瀬川さんの変わりない様子からも、まだ身代金の要求などの連絡は来ていないようだった。
「あのさ、今メールで送った場所に、瀬川さん、車で来てくれない?」
急で悪いけれど、今はそれ以外の雑談をしている暇が惜しくて、唯花の3Sの位置情報をスクショしたものをスマホで送る。
「これまた急な話というか・・・これって3Sの情報じゃないですか」
ゆったりとしていた瀬川さんの雰囲気がピンと張り詰めたものに切り替わったことが電話越しでも伝わってきた。
「落ち着いて聞いてほしいんだけど、唯花が、どうやらその場所に、実の父親に連れ去られたみたいで」
「はぁ!?連れ去られた??ってことは3Sの情報で唯花ちゃんの居場所を突き当てたってことなんですか!?」
さすが瀬川さん。理解が早い。
「そう。あと、俺バイクで移動するから、その場所から唯花が動かないかも見張っててほしいんだけど」
まだ犯人も居場所がバレているとは思っていないだろうから、どこかへ移動するとは考えにくいけれど、万が一を考えると、運転手付きの車で来ると思われる瀬川さんに見張っていてもらうのが一番だと思った。
「見張っててって、3Sにまだ連絡してないんですか?というか、社長と奥様には連絡したんでしょうね?まだなら私から連絡しますけど」
まぁ、普通に考えたら、瀬川さんに話す前に、3Sの特殊部隊を呼んで、両親にさっさと連絡をしないといけないのですが。
「あ、各方面に連絡するのは待ってほしい。まだはっきりと誘拐って決まったわけじゃないし」
できれば、今回の件はなるべく波風を立てずに終わらせたかった。




