129.こんな文化祭になるなんて聞いてない!5 (side湊)
「つまり、少し前から唯花は実父である吉岡弘道に色々な物を売ってまでお金を渡していたけれど、とうとう渡すお金が無くなってしまった。今日はそのことを伝えに行っただけなのに、少し前から連絡が取れなくなってしまい、心配になった美琴ちゃんが面会場所であるそのカフェに行ったけれど、店の中に唯花達の姿は見えなかった。そこで店員さんに聞いてみたら、ぐったりとした唯花を介抱するといって連れ去る吉岡弘道が目撃された、と」
要約するとそういう話らしい。
「それって、唯華ちゃんが誘拐されたってこと!?」
話を隠すつもりもなく、生徒会室で話していたから、真咲達にも聞こえていたようで、二人とも焦ったような表情をしている。
それはきっと自分も同じだろうと思った。
「その可能性は高いだろうね」
そのうち身代金の要求がくること可能性は高いだろう。
けれど、それをただ大人しく待つつもりはさらさらなかった。
誘拐犯の目的がお金である以上は今すぐに命の危険に晒されることはないだろうけれど、それでも何が起こるか分からないし、それになにより、唯花が不安な気持ちで過ごしているのだろうと思うと、一刻も早く助けに行きたかった。
「連絡ありがとう。美琴ちゃんが教えてくれたから、早く迎えに行けるよ」
「うぅ・・・・・・。あたしがもっと無理にでもついて行けば、大丈夫だったかもしれないのに」
確かに、唯花がもっと早く相談してくれれば、とか、いくつものたらればを数えたら、こんなことにならなかったのかもしれないけれど。
それでも誰にも何にも相談しなかった世界よりは、良い道を選んでくれたのだ。唯花は。
最善ではないが、最悪でもないこの道を、最善にするのが俺の役割だと思う。
「絶対に俺が唯花を助けるから。だから美琴ちゃんはそこで何か飲み物でも飲んで落ち着いてて。真咲にタクシーで迎えに行ってもらうね」
こんなに動揺した美琴ちゃんを1人で帰すわけにはいかないと思い、真咲に目だけでお願いすると、真咲は頷いてタクシー会社に連絡してくれた。
「で、美琴ちゃん迎えに行くのはいいけど、湊はどうするんだ」
美琴ちゃんとの電話を切った後直ぐに唯花に電話を掛けてみたけれど、『電波が届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません』という音声しか流れなかった。
「唯花の居場所を突き止めて迎えに行くよ、勿論」
電話をかけるのは諦めて、次の一手を打つ。
「あ、スマホの位置情報使う、とか?あー。でもそのくらいは普通に誘拐犯だって思いつくよな」
桐葉の言う通り、美琴ちゃんとの会話中にダメ元で位置情報を調べてみたけれど、位置情報は美琴ちゃんがいるという喫茶『レトロ』を示していた。
「そうだね、スマホはカフェにあるみたい。真咲、電源切れてるっぽいから探しにくいとは思うけど、美琴ちゃん迎えに行ったついでに回収してきてくれる?」
おそらく、位置情報を辿られないようにカフェの中か、駐車場付近にスマホを捨てて行ったのだろう。
「分かった。スマホがカフェにあるってことは唯花ちゃんの居場所分かんなくなっちゃったな・・・・・・」
そう悲痛な面持ちで真咲は言うけれども、悲観的になるにはまだ早すぎる。
「場所は分かるよ。腕時計が外されてなければ」
「時計?でも唯花ちゃんの時計ってスマートウォッチじゃなくて、普通の時計じゃなかったっけ」
その通り。俺が唯花の誕生日にあげて、唯花がずっと身につけている時計はアナログ時計だ。
「うちの関連会社の3S、三枝セキュリティーシステムではアナログの腕時計にGPS付ける事業に力入れてるんだ。スマートウォッチだと明らかにGPSついてる感じするから、何かあった時に外されちゃうけど、アナログの時計ならまさかGPSが付いてるなんて思わないでしょう」
だからこそ、時計はちょっとおしゃれくらいにとどめておかなければならない。時計自体が高そうに見えたら、金品目的の場合外されかねないし。
「マジかよ。あの時計見た目以上に高いわけ?」
それはもう。




