124.こんなデートになるなんて聞いてない!(side湊)2/2
「お前みたいに綺麗で尚且つ強い剣道ができるなら剣道YouTuberでも食っていけると思うけど、俺レベルの剣道家だったらそれだけで飯を食うのは厳しいと思う」
そう、だろうか。どんなことにも一生懸命取り組んで、剣道が大好きという真咲ほどの情熱があっても、難しいことなのだろうか。
「ってか桐葉に言われたから考えてみたけど、そもそも俺は剣道YouTuberになりたいとはあんまり思わないな。剣道を広めるために趣味でしてもいいかなってくらいで・・・・・・。って違う。桐葉のせいで話がズレたけどさ、俺が言いたいのは、夢が叶う人間なんてほんの一握りで、自分の好きなことを仕事にしている人ばかりってわけじゃないってこと」
それくらいは分かってる。一般的に、夢はあまり叶わない。
真咲の掲げるインターハイ優勝の夢だって、叶うかどうか分からない。
けれど、叶わないからといって夢を諦めなければいけないわけじゃないってことも知ってる。
「お前はさ、なんでも一番だったから、自分より上の人間に会ったことはないかもしれないけどさ・・・・・・大抵人間はテストとか模試の結果を見て、己の立ち位置を知るんだよ。あぁ、これ以上の順位にはなれないんだなって。順位が付かない世界でも、あいつには勝てないんだなって人や作品に出会うことがあるわけ」
己の立ち位置、か。
確かにその基準で測れば俺はきっと俺が観測できる範囲の中では一番上にいるのだろうけれど。
「それで奮起しないわけじゃない。論理的には同じ人間なんだから俺だってやってやれないことはないはずだと思う。けど、現実問題俺がお前に勝ててないように、いくら頑張っても勝てない人とか、勝てない才能がある」
でも、俺はそういう基準で物事を見てこなかったし、真咲もきっと俺と同じように順位や勝ち負けを気にしないで、単純に己ができることを確認しているだけだと思っていた。
「勿論俺だって湊に隙あらば勝ちたいとは思ってるけど、それ以上にお前以外の人に負けない方が大事っていうか、負けたくないって思ってる。そうやって人は折り合いをつけて、新しい目標を見つけていくんじゃないかな」
知ってた。真咲が俺とは違う人間だってこと。
でも、知らなかった。真咲がずっとそんなことを思っていたなんて。
「まぁ、つまり唯花ちゃんの絵の才能がどのくらいかはわからないけど、絵の世界って勝ち負けのある世界とは、また違う世界だから別の苦しみがあるんじゃないかな。その世界で苦しむよりもは、公務員になって自分1人で生きていけるようになりたいんじゃないかって俺は思うよ」
そうかもしれない。
唯花は人を頼るのが苦手だけれど、1人でも生きていける人間だから。
本当は、唯花は俺なんかがいなくても生きていけるのだ。
夢はあまり叶わない。
俺は唯花とずっと一緒にいたいという夢を初めて持ったけれど、きっとこの夢は。
年末年始更新頑張ります。




