こんなに平和になるなんて聞いてない!
このまま追加で入院したい気分でも退院してしまったからには学校に行かなければならないわけで。
ニコニコ笑顔のお兄ちゃんと一緒に登校することになりました。
いやもうね、朝起きてびっくりしたよね。
朝練に行っていて、もう家にいないと思っていたお兄ちゃんが、朝ごはんを用意して待っていたんだもん。
どんなドッキリだよ、みたいなね。
しかも朝ごはんを食べながら、「今日から一緒に行こうね」言われて、びっくりしていたら、
「だって付き合ってる二人は一緒に行くものでしょう?」って笑顔で言われたらそれはもう何も言えないってなりませんか?なりますよね。なりました。
そもそもそれはそういう設定になっているだけだから守る必要はないのでは?
いやでもその設定を守るために一緒に行くことになっているのか。
というか、設定ってどのくらいの期間、どのような行動をすれば順守されていることになるの?
そんなことをぐるぐると考えていたら、いつの間にかヘアアイロンをお兄ちゃんが用意していて。
「髪の毛はねてるところがあるから、朝ごはん食べ終わったら直してあげるね」
そう言って直してくれたお兄ちゃんは、美容師さん顔負けの手際の良さで。
え、お兄ちゃんがヘアアイロン使っているところを見たことはないんですけど、もしかして毎日使ってます?それとも密かに美容師目指して練習していたんですか?っていう気持ちになりました。
いや、まぁ、現実逃避はこのくらいにして。
とりあえずしっかりしないと主導権を全て持っていかれることが分かったけれども。
しっかりしたところでどうにもならない気がするがするのは、私だけでしょうか。
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久々の学校というのは、往々にして行きたくないタイプの私なのですが。
今回は!なんと!今までの人生で一番行きたくない。
学校で嫌がらせされて、最終的に階段から突き落とされた上に、学校で一番人気のお兄ちゃんと付き合ってるという設定が公言されている学校に行くとか。
行きたくなさの極み。体育祭の朝よりも行きたくない日がこの世にあるなんて知らなかった。
・・・・・・。まぁ、だからこそ、お兄ちゃんが居てくれて若干は助かってるけれども。
いや、でも手を握ってくるとは思ってませんでしたね。
学校の最寄りの駅に着いた瞬間ナチュラルね、手がね、くっついていたからね。
引っ張っても一切手が離れる気配はなくて。
最初は私が登校から逃げ出さないためかとも思ったけれども、笑顔のお兄ちゃんが「だって付き合ってる二人は手をつなぐものでしょう?」って言われたらもう何も言えないってなりませんか?なりますよね。なりました。
そんな私たちを遠くから見ていた学校の人が気絶したり、叫んだりしている人がいる通学路はさながら阿鼻叫喚でした。
そんな地獄を通り過ぎて、朝礼が始まるまで教室の隣の席に座り始めたらどうしようと思っていたけれども、
教室前で「お昼休みにまた会おうね」と爽やかに挨拶をして去っていったので安心しました。
その後の休み時間に荷物を置きっぱなしでトイレへ行っても、鞄にも机にも一切嫌がらせが無いどころか、お兄ちゃん宛ての手紙さえも入っていなくて。
久々の学校は、クラスメイトが遠巻きに見てくる以外はあまりにも平和で、平穏だった。
お兄ちゃんが少し話しただけでこんなに変わるのかと思ったら、今まで何を頑張っていたのだろうと少しだけ悲しくなった。
そんな感じのことを、ポツリと美琴に零すと。
「だって、誰だって自分の身は可愛いものだもの」と、美琴は静かに言った。




