付き合うことになるなんて聞いてない!4/7
数学もばっちり分かったし、夕飯に間に合わなくなるから帰るねと美琴は帰ってしまったため、お兄ちゃんと二人きりになる。
「お兄ちゃんは夕飯大丈夫なの?」
お父さんもお母さんも帰ってきてるし、一緒に食べたりするのではないだろうか。
「大丈夫。唯花の夕飯まではいるよ」
ということは、あと一時間半くらいはいるわけで。
美琴が帰る時に、教科書を閉じてしまったものの、再び開いた方が良いのだろうか。さっきまで数学だったから、英語でもいいかなぁと思うけれども、これ以上勉強したい気分でもなかった。
かと言ってせっかくお見舞いに来てもらっているのに何かしないというわけにもいかない。
「気を使わないで。ただ唯花の傍にいたいだけだから。あっちのソファに座ってるから、何か用事があったら言って」
気まずさが伝わってきたのか、お兄ちゃんはそう笑顔で言うと、奥のソファに座ってスマホを使い始めた。
いいなぁ。スマホ。
じゃなくて。こうなってしまうと益々手持ち無沙汰だ。
そういえば美琴が絵を描けばいいじゃないって言ってたことを思い出して、絵を描くことにした。
いつもの部活の流れで言えば、人物のクロッキーから始めて各々の作品に取り組むことが多いのだが。
クロッキーのモチーフになりそうな人物が、ナースステーションに行って絵を描かせてもらうわけにもいかないため、お兄ちゃんしかいないんですけど。
勿論、何度もお兄ちゃんという高級素材を元に絵を描いてみたいと思ったことはある。
けれども、描かなくても分かる。
お兄ちゃんの美しさを表現するのは至難の業であるということなんて。
描いたらもっと身に染みた。
いや、ほんと、お兄ちゃんって全然うまく書けない。コレジャナイ感がすごい。
お兄ちゃんのあの美を描ける人なんてティッティアーノとかルブランとか、そういう名だたる巨匠だけだと思う。
「はー」
やっぱりお兄ちゃんをテーマに文化祭の作品を仕上げるのは無理そうだった。
うーん。文化祭の話を聞いた時からうっすらと考えていたのは、タイトルを「虚像」にして、お兄ちゃんを後ろ姿から描こうかなぁと思っていた。
いや、お兄ちゃんの顔を上手く表現できなさそうだから背後から書こうと思っていたわけではない。
皆がいつも見ている正面には光が当たっていて、お兄ちゃんは光り輝いて見えるでしょうけれど、その後ろの姿の暗くなっている部分には、皆には見えてないかもしれませんが、努力もしてるんですよっていう感じの絵。
なんていうか、大体の人はお兄ちゃんが努力しなくても何でもできるんじゃないかと思っていると思う。
確かにお兄ちゃんは何でもできるけれど、流石のお兄ちゃんと言えど、魔法使いのように手を叩けば一瞬でご飯を作り出すことができるわけじゃない。
剣道だって、勿論他の人よりも上達速度がチートレベルかもしれないけれど、それでも真咲さんと真剣に練習して全国一位になっている。
夕食後は大体リビングで難しそうな本を読んでいることが多いし、パソコンで何かを調べごとをしたりと勉強している時間はすごく長い。
つまり何が言いたいかというと、お兄ちゃんは確かにすごい人だけれど、それに伴う行動も行っているのだ。
そういったことをお兄ちゃんの背中を通して表現したいのだけれど・・・・・・。まだ完全につかみきれていいないというか、表現したいことが高度すぎるというか。
うん。とりあえず今日はお兄ちゃんが持ってきてくれた花束でも描こう。
気を取り直して私は次のページを捲った。




