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こんなことになるなんて聞いてなかったなんて言わないでください 4/4 side湊

もうすぐ授業が始まる、と大慌てで生徒会室を出ていく平岡の背中を見送った。


彼の次の授業が移動教室でないことを祈るばかりである。


何か連絡が来ていないかとスマホを確認すると、少し前に瀬川さんから唯花の件でラインが届いていた。


最初の病院では骨折などの外傷は検査の結果見られなかったこと。


懇意にしている病院に転院して、今は精密検査を受けているということ。


唯花の意識は途中で戻ったことも分かって、張り詰めていた緊張が少し解けるのが分かった。


瀬川さんに電話ができるどうかを確認すると、大丈夫なようなので、電話をかける。


「お疲れ様です。坊ちゃん。電話は一ノ瀬先生の試写会のチケットを手に入れてくれって夏に掛けてきた時以来ですね」


唯花の無事がある程度確認できているからか、瀬川さんの調子はいつも通りだった。


「お疲れ様です。瀬川さん。その節も今日もいろいろありがとうございました」


そういえば、夏休みに出かけたあのチケットの時に瀬川さんに手配してもらったんだったな。


唯花には偶然家に届いたからって言ったけど。


それさえも、唯花が怪我した今ではすごく懐かしいもののように思えた。


「いーえ。……しかし、お嬢様と直接お顔を合わせてお話する初めての機会がこのようなことで、すごく残念に思います」


確かに結婚式の時も直接話した記憶はないし、最近は俺も直接顔を合わせることがあまりなかったから、二人に直接的な面識はなかった。


それを思うと目が覚めた時の唯花は、担任の先生がいたとはいえ知らない人がいて驚いたかもしれない。


「そうですね。俺も残念です」


本当は目が覚めた時に一番に声を掛けたかったし、最初は目が覚めるまでずっと傍にいるつもりだった。


しかし、美琴ちゃんから誰かに突き落とされた可能性があると聞いた時、犯人を見つけるには今動かなければならないと思った。


すごく迷いに迷った結果、犯人を見つけられるチャンスは今だけかもしれないと理性が止めなければ、唯花の傍にいたいという感情が勝っていたかもしれない。


それくらい唯花のことが大切で、それと同じくらい犯人のことが許せない。


「で、何があったか分かったんですか?」


学校でできることは終わった。


「まぁ、それなりに。それでさらに瀬川さんにお願いしたいことがあるんですけど」


次に打てる手は、瀬川さんを使うことだ。


「わかりました。堀隆史って人のことを調べればいいんですね。いつもの探偵事務所を手配しておきます」


話が早くて助かる。


「あと、俺のファンクラブのサイトの会社も買い取ってほしいんだけど」


言いづらいな、と思いつつ二つ目の要件を言うと、案の定笑い声が向こう側から聞こえてきた。


「え、坊ちゃんファンクラブとかあるんですか。うける」


ほんっと瀬川さん優秀で優しい人ではあるけど、俺に対する態度って何なんだろう。


いや、生まれた時から知られているわけだから、瀬川さんにとっては俺はいつまでたっても子供なのだろう。坊ちゃんって言われてるし。


「駄目じゃないですか。自分のファンくらいきちんと管理しないと」


その忠告には耳が痛い。


なるべくファンクラブの内容も確認するようにはしていた。しかし、学生証の番号が会員番号で、真咲の学生証の番号や美琴ちゃんの会員番号では開けないページというものがあったのだ。


そのページが今回の件に関わっていることは間違いないため、確認するにはそのサイトの会社を買い取ってもらうのが一番早くて簡単であると思った。


「わかりましたよ。あなたのお父様からも力になるように言われてますので。会社の力でねじ伏せておきますね」


まぁ、瀬川さんを頼るということは父さんに何もかも筒抜け、ということなので、なるべく利用したくない方法なわけだが。


「よろしくお願いします」


背に腹は代えられないし、父さんも唯花のことは大切に思ってくれているので、これくらい利用しても怒られはしないだろう。守れなかったことについては言われるだろうけど。


瀬川さんとの電話を終えた後、美琴ちゃんがいる保健室に戻って、タクシーで一度家に帰り、必要な道具を病院へ持っていくことにした。


入院に必要なパジャマとかは瀬川さんが全部病院で購入してくれているため、それ以外の必要であろうものを美琴ちゃんが唯花の部屋から用意している間に、俺も自分の必要な荷物をまとめる。


父さんのことだから絶対に一番良い個室なはずで、そうなると一人くらい余裕で泊まれるため、唯花の傍にずっといるつもりだった。


シャワーを軽く浴びて、必要な荷物をまとめて、再び美琴ちゃんと一緒にタクシーに乗って病院へ向かった。


やっと、やっと唯花の傍にいられる。


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