こんなことになるなんて聞いてなかったなんて言わないでください 3/4 side湊
「お前、普段スマホ持ち歩かないのか?」
平岡が犯人ではない、と思ったことの一つに、スマホを普段持ち歩かない、というのがある。
「そうっすよ。トイレに持ち込めばトイレに忘れるし、売店に持っていけばレジの横とか棚に置き忘れるから、あんまり持ち歩かないようにしてるっす」
平岡……。お前大丈夫なのか。
「じゃあ普段は鞄の中に入れてるとか?」
「登下校中はそうっすけど、学校では基本的に机の上に置きっぱなしっす。鞄に入れていると通知に気が付かないんで」
いくら学校とはいえ、スマホを机の上に置きっぱなしって不用心がすぎると思うんだが。
だからこんなことに巻き込まれるんだよ。
「このラインが送られてた時は、どこで何をしていた?」
「昼休みの最初っすよね。俺いつも売店で弁当買うんで、今日も弁当買いに行ってたっす」
なるほど。つまり平岡はいつもその時間に教室にいなくて、その上スマホはすぐに使える状況にあったというのは、周知の事実だったというわけだ。
「……。平岡、教室に信用の置ける人物とかっているか?この時間帯にお前のスマホを触っていた人を見た人がいないか、その人に聞いてほしいんだけど」
俺が疑っていないということが伝わったのか、平岡は顔を輝かせた。
「信用できる人っていえばやっぱり俺の幼馴染で彼女のよっちゃんっすね。よっちゃん!?そういえばよっちゃん。昼休みに俺のスマホがどうって言ってた気がするな……」
俺が今日一番聞きたかった内容はそれだよ。それ。
「あー。確か、誰かが俺の机にぶつかって携帯が落ちてたのを堀くんが拾ってくれてたって言ってた気がするっす。だから机の上に置きっぱなしにするなって言われたんすけど、もうそのお説教何百回も聞いてたから、いつものことだって気にも留めてなかったっす」
気に留めていてくれて、すぐにその話をしてくれたら、信用したかはともかく、こんなに無駄な時間を過ごさなくて済んだんだが。
しかし、それを平岡に言っても仕方がない。
「でも、俺スマホにロック掛けてるっすよ。それにいつもよっちゃん、俺が売店に行く間にいつもトイレ行くから、堀がスマホを使っているところを直接見たわけじゃないとは思うっすけどね。流石にスマホを使われてたって言われたら俺も気にしたっすから。……。こんな曖昧なことで堀が犯人って思われたら、隣の席でよく話す堀に悪いっす」
平岡……。お前スマホを使われたかもしれないっていうのに堀を庇うなんて、良い奴だな。
「お前ってスマホのパスコードってよく変える方か?」
『スマホのロックをかけていたから使えない』と平岡は言うが、たとえスマホのロックをかけていたところで、絶対に開けられないわけじゃない。隣の席の奴なら尚更だ。
「いや、最初に設定した時からずっと変えてないっすけど……」
だろうな。
「ならお前がスマホを使う時に盗み見る機会なんていくらでもあるだろ。さっきだって俺の前でパスコード入力してたから、今なら俺だってお前のスマホを開けられる」
しかも1234とかいう安全性が低すぎるパスコードなんて、もはや鍵がかかっていないようなものだ。
「は?人がパスコード入力してるところを見るなんてマナー違反っすよ!!」
みんながお前みたいな倫理観を持っていたら事件なんてこの世の中からなくなると思うよ。
「指紋認証で開けるのどうにも苦手なんっすよね……。で、どうするんすか?堀呼んできましょうか?」
確かに堀と話をして犯人かどうかを問い詰めたいところだが、状況証拠しかない以上、堀を追い詰めることはできないだろう。
状況証拠としては、堀が平岡のスマホを使っていた可能性が高いこと。
そして、唯花が階段から落ちた時の野次馬の中に、堀がいたことを俺が覚えているということだけだ。
堀と唯花の接点は俺の知る限り思いつかないし、動機もわからない。
「いや、呼ばなくていい。というか、堀のことは誰にも言わないでほしい。放送部のラインの件で呼び出されたくらいは言ったもいいけど、俺が送ってないって信じてもらえたかはわからないっていう風に、みんなには言ってほしいんだ」
犯人に俺は気が付いていないと油断させて、証拠を手にしなければならない。
堀以外にも仲間がいるのかもしれないし、そもそも堀が犯人ではないかもしれないからだ。
だからこそ、もっと慎重に探らなくてはならない。
『俺の知らない何か』がそこには必ず存在しているはずだから。