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こんなことになるなんて聞いてなかったなんて言わないでください 1/4 side湊

夏休みが明けた後から、唯花の身に何があったのかを美琴ちゃんは俺に話してくれた。


最初に物がなくなったこと。隠し撮りの写真が送られてきたこと。


女子を中心とした悪口や噂が流れたこと。


今回の階段から落ちたことも、誰かが嫌がらせがエスカレートして落としたと考えている、ということなどを涙を一生懸命堪えながら話してくれた。


そんな嫌がらせを受けていたというのに、唯花は何も言わずに俺の前ではいつも通り明るく振舞っていたのかと思うと、すごく心が痛んだ。


少し前の俺だったら、多分話してもらえなかったことに傷ついていたと思う。


けれど、今は違う。今は、唯花が俺のために言わなかったのだ、ということが分かる。


言えば俺に迷惑をかけるから。


俺のせいでこんなことになったっていうことはわかっていただろうに、俺のために「いつか終わるだろう」と思って耐えていたなんて。


そんな唯花が怪我を、怖い思いをしたと思うと、嫌がらせをした奴ら全員が許せなかった。


俺だってここまで話を聞いて、階段から落ちた件も唯花が自分で足を踏み外したなんて思えない。


少なくとも誰かが悪意を持ってぶつかったと考えるべきだ。


こんなことなら湊様ファンクラブなんてくだらないもの、使えるかもしれないと放っておくんじゃなかった。


そして唯花に手を出したら容赦しないと、みんなにもっとはっきりと伝えておくべきだった。


「でも、どうして唯花は一人で階段を降りていたのかしら。絶対に教室で大人しくしておいてって言ったのに」


そう不思議そうに言う美琴ちゃんの言葉から、唯花が今日の昼休みにあの階段にいたことは偶然だったのだろうか、という疑問が生まれてきた。


「自衛していた」という唯花が、用もなく階段をうろついていたとは考えにくい。


あそこの階段を使う理由は大体が『職員室に行くため』だ。他にも自販機や売店を利用するために通る人も多いが、今回は職員室に向かっていたと考えるのが妥当だろう。


昼休みに勉強していたら分からないことが出てきた、とか……。いや、それなら俺や美琴ちゃんに聞けばいいから、大人しくしてろと言われたのにわざわざ職員室には向かわないだろう。


昼休み、昼休みか……。そういえば何か今回の件の前に校内放送が流れたような気がしたけど、何だったっけ。美琴ちゃんは会議室にいたから知らないだろうけど。


基本的に騒がしいは時はあまり周りの声が聞こえないようにしているから、校内放送とかも意識して聞いてないんだよな……。放送されていたら周りが教えてくれるし。


なんだったっけ。意識を集中させて、脳内で昼休みの音声を再現してみる。聞いていないわけじゃないから、思い出せるはずだ。


「分かった。あの時唯花は槙先生に職員室に来るように、校内放送で呼び出されていたんだ」


それを相手が利用して待ち構えていた、ということだろうか。


いや、でも『階段を利用している』という条件だけなら、校内放送を待たなくても、移動教室の時を狙えばいいわけで。


それなのにどうして今日の校内放送の時にしたのか。


それはずっと傍にいた美琴ちゃんがいなかったからだ。


「あたし槙先生に唯花を呼び出したか、聞いてくる!!!!」


美琴ちゃんもその可能性に辿り着いたらしい。その校内放送が偽物だった、という可能性に。


職員室へ飛び出していく美琴ちゃんの背中を見送り、もっと考えを深めることにする。


もう少しここで考えなくてはいけないことがあるはずだ。


その校内放送が偽物だった場合、誰が呼び出しをかけたのか。それは勿論犯人だ。


一人か、複数人かはわからないが、犯人の一人であることは間違いない。


となると「誰がどうやって校内放送をしてもらったのか」が問題だけれども、それは意外と簡単に分かる。


うちの学校には放送部のLINEアカウントがあって、放送してほしいことがあれば、そこに文章を送るだけで校内放送をしてくれるシステムになっているからだ。


俺も生徒会長として校内放送で伝えてほしい内容を送ることはよくあったし、急な放送にも対応できるようにと部員の人ともラインを交換している。


確か、今日の校内放送をしていた人ともラインを交換していたはずだ。


スマホでその人のラインを開いて、今日唯花を呼び出した校内放送が、槙先生からだったのか、それとも違う人なのか。違う人ならその人のことを教えてほしい。という内容を送る。


授業中だから見ていないかもしれない、と思ったけれど、授業中でもスマホを利用するタイプの人間らしい。


うちの学校では成績が悪くなく、他人に迷惑さえかけなければ授業中にスマホを利用していても怒られはしない。嫌味を言う先生もいるから、あまり堂々と利用はできないが。


『み、湊さんからラインを頂けて光栄です!!!!!その校内放送でしたら、槙先生から直接ラインがあったわけではありません。去年のクラスメイトだった平岡くんからのラインだったので、どうして平岡君が、と思い、聞いてみたところ、槙先生から頼まれたんだ、というお話でしたので、気にも留めず校内放送してしまったのですが……。妹さんの件と何か関係あるのでしょうか。妹さんの無事を祈っています』


そういう個人のラインとともに、放送部のラインから証拠のスクリーンショットも送られてきた。


先生から送られてきたわけでもない内容を信用して放送したことには問題があるとは思うが、今までも生徒が先生の伝言を伝えたことが度々あって問題があるとは思っていなかったのだろう。


いや、問題は放送部ではない。平岡だ。


平岡は去年も今年も隣のクラスだったから、体育で何回か見たことがある。運動が得意みたいで、チームワークの必要な競技ではみんなを引っ張っていく感じの奴だ。


今すぐに平岡の所へ行こうかと思ったが、もうすぐ授業が終わるので、次の休み時間に行くことにする。


美琴ちゃんが戻ってきてからでも遅くはないはずだ。美琴ちゃんにも平岡について知っているか聞いた方がいいだろうし、どんな情報でも裏を取らなければならない。


「湊さん!!!やっぱり槙先生は呼び出してないって!!!ってことは呼び出した奴が犯人ですよ!!!」


そう言って息を切らせて戻ってきた美琴ちゃんのおかげで裏は取れた。


平岡に話を聞かなければならない。


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