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こんなことになるなんて聞いてない(side美琴)▲

担架で唯花が運ばれた後も、動かないで廊下に座っていた湊さんに立ち上がるように促した。


顔色が悪いけれど、それはきっとあたしも同じだろう。


だから一度教室に荷物を取りに戻った後の集合場所は、保健室にした。


連絡が入るまでにどのくらい時間が掛かるか分からなかったし、壁に打ち付けた手がヒリヒリと痛んで冷やしたかったからだ。


唯花はもっと痛いのだろうと思うと、やるせない気持ちが込みあがってくる。



教室に入ると、いつも通りに授業が行われていた。


そのことがまた腹立たしくて、二人分の鞄を手に取ると、何も言わずに教室を出た。



保健室には、先生も生徒も、誰もいなかった。


手の空いている先生は職員室で会議か何かをしているのかもしれない。


冷凍室から保冷剤を手に取って、ハンカチに包み手に当てる。


椅子に座ってスマホに連絡がこないか、手を冷やしながら待っていると、湊さんが部屋に入ってきた。


湊さんは机の上に荷物を置くと、あたしの向かい側の椅子に座った。


「うちの親と連絡が取れた。急いで日本に戻るけど少し時間が掛かるから、入院の件は瀬川さんに任せるって。だから、先生の連絡先教えてもらえるかな。瀬川さんに早めに伝えないといけないから」


さっき廊下で今にも消えてしまいそうだった湊さんとは打って変わって冷静さを取り戻していた。


家族と話すことができて落ち着いたのかもしれない。


「わかりました。すぐ送りますね」


そう言ったものの、瀬川さんって誰なんだろう。唯花の話でも聞いたことのない人だと思うのだけれど。


「瀬川さんって誰ですか?親戚の人とか?」


「あー。瀬川さんは優秀な人で、親が海外にいる間に会社のことを任されている人。小さい頃は俺もよくお世話になってた。優しくて良い人だよ」


なるほど。家族の世話まで任されているなんて、相当信頼されている人なのだろう。


「瀬川さんが母さんが入院していた病院を手配してくれると思う。父さんがあの病院のこと信頼しているから」


母さんって、亡くなったっていう湊さんのお母様のことか。


「なら安心ですね」


一番の心配事は唯花の容態だけれども、優秀なお医者様に見てもらえるのだとしたらほんの少しだけ安心できた。


「そうだね。だから病院に急いで駆けつける前に、しないといけないことを終わらせようと思うんだ」


連絡し終わったのか、湊さんはスマホを横に置いて、手を前に組んだ。


すごく、すごく嫌な予感がする。


「誰が唯花にあんなことをした?」


じっとこちらを見つめられるとその威圧感で、じわっと汗が出てくるのが分かった。


「いや、それはあたしも知りたいことですけど」


保冷剤を当てている手だけが冷たい。


「……。美琴ちゃんなら今の質問で分かると思うけど。それとも、分かったうえでその返事なのかな?」


そうですね。分かりましたよ。だってその質問はあたしが廊下で言った言葉とほぼ同じだもの。


だからあたしが犯人を知っているわけがないってことは、湊さんだってわかっているはず。


「何を隠してるの?」


唯花に言わないでほしいと言われた手前、黙っていたいと思う。


たとえこんな状況になったとしても。言うかどうかは、唯花が判断するべきだ。


「黙ってるってことは、唯花に口止めされてるんだろうね」


ただ、それは相手が湊さんじゃない時に言えるセリフなのかもしれない。


「唯花から相談してもらえなかったのはショックだし、頼ってもらいたかった。

 今回の件について唯花の口から聞けるのが勿論、一番良いに決まってる。


 でも、この件について話すために唯花に思い出させるのも嫌だし、

 次に唯花がこの学校に来た時には、何もかも終わって平穏に過ごしてほしいと思ってる」


確かに、それはそうだ。


唯花にはもう苦しんでほしくない。


そうなると、できることは二つだ。


行動するか、しないか。


ただ黙って泣き寝入りするのだけは、嫌だった。唯花が良いと言ったとしてもあたしが嫌だ。


だからといって、今回の件について先生方に話したところで、何が解決するというのだろうか。


でも、先生方に頼らないで解決するには、あたしだけでは力不足だ。


唯花のことを絶対に守ると誓ったのに、守れなかった。


ずっとそばにいたのに、支えることすらできていたのかさえも怪しい。


そんなあたしにできることは、湊さんに全てを話して解決してもらうことしか、ないのかもしれない。

平成最後の更新でした。

令和もよろしくお願いします。

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