格好いいとは聞いていました。
『再婚を考えている人がいるから一緒にご飯を食べて欲しい』と母に言われたのは、春が来る少し前のことだった。
別に食事会など開かなくても、母がその人が良いのなら、よほどの人でない限り反対する気はない。
ただ、気乗りするわけじゃなかった。知らない人と家族になるということは勿論、相手の人にも子供がいて、それが私の一つ上の男の子であるというのは、とても気が重いことだった。
これが私に関係のない世界で行われていることならいいのに。
などという現実逃避をしていても日々は刻々と進み、とうとう顔を合わせる日がやって来てしまった。
煌びやかなレストランの、座り心地のとても良いはずの椅子が、凄く座りづらい。
「やぁ、唯花ちゃん。ずっと会いたかったんだよ。よろしくね。この子が湊」
そう笑顔で言う義理の父となる人は、大層背が高くて、顔が整っていて格好良くて、まるで俳優さんのようだった。
「一昨年の冬にスキーで骨を折ったおかげで、看護師である君のお母さんに出会えて、一目で恋に落ちたんだから、人生何が起こるか、分かんないよね」
そう言いながら私に微笑みかけるこの人からは、物凄く母のことが大好きですオーラが出ていたので、少しだけ安心した。勿論それだけでは信用できないけれども、母の見る目を一応信頼はしている。
いやでも、うちが離婚した原因が、私のお父さんがどうしようもない人だったからという理由なので、やはり、お母さん見る目は信用できないかもしれない。
そう思うと若干不安になったので、今度は兄となる人を観察することにした。父親譲りのスタイルと顔立ちの良さに母親譲りの外国人の色素の薄さが混ざっていて、容姿はそれもう完璧だった。しかも着ている制服がこの辺りで一番頭が良い進学校の制服を着ていたので、頭も大層良いのだろう。
もしかしてこの人と兄妹になるということは、もの凄く大変なことなんじゃないか……?まぁ、逆に比べられても何一つ勝てそうな気がしないから、ある意味気が楽だけど……などと思いつつ、運ばれて来た料理を大人しく食べる。
ちなみに彼のお母さんは彼が幼いころ病気でなくなったらしい。
「唯花ちゃんは今年受験生だよね。行きたい高校とか決めてるの?」
私は笑顔で返事をするだけの機械。私は笑顔で返事をするだけの機械。そう思いながら黙々と一品ずつでてくる料理を食べていると、気を使ってくれたのか、父となる人がそう話題を振ってくれた。
「えっと、その軽く、は考えているんですけど、まだ何とも言えないです」
自分の実力で行ける高校に行きます、は流石に可愛くなさすぎだろうと思った結果の返事がこれだったのだが、それでも可愛くないなと我ながら思った。
でもこれ以上可愛い返事なんてできない。
「結婚したら湊になんでも聞いて良いからね。な、湊」
「はい。もちろん」
そう言ってほほ笑む湊さんは、私とは対照的に完璧だった。母がするどんな質問にも、淀みなく完璧に返事をしていた。
私はこんな完璧な受け答えもできないし、一緒にするのは烏滸がましいくらい何もかも違うのだけれど、それでもどこかこの人と似ているな、と思った。
この結婚を遠くから見ていた。距離感が同じだった。
だから、湊さんと上手く兄妹を演じることが出来ると思ったから、家に帰って私は母に結婚を勧めた。
一緒にご飯を一回食べただけだけど、多分騙されているということはないだろう。
涙を流して喜んでいる母の姿を見て、今度こそ幸せな結婚生活を送って欲しいと、切に思った。