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第四話

 体が軽い。

 目覚めた俺が最初に思ったのがそれだった。

 まるでマッサージを受けた翌日のような……それ以上の開放感を感じるのだ。

 疲労と言う疲労が全て取り払われたような、そんな感覚。

 おかげで眠気もすぐに覚めた。


 瞼を開けると誰かの顔が見える。

 この美少女は一体……そうだ、雨笠だ。俺は彼女を守ろうとして、それで気絶したんだった。

 彼女が無事と言うことは、俺は彼女を守ることが出来たのだろう。

 モンスターを倒した瞬間の光景は、今でも脳裏に張り付いている。

 ふと、左手が温かいことに気がついた。

 目だけをそちらに向けると、雨笠の右手が俺の左手を包むようにして握っているのが見えた。


 ……少しは心を開いてくれたって言うことだろうか。もしそうだとすれば、かなり嬉しいのだが。


「おはよう」


 俺が声を掛けると、雨笠はびくりと身体を震わせた。

 そして離れていく彼女の手。少し残念に思ったが、あのまま寝たふりをしているのは少し卑怯な気がしていたから、これで良いのだ。


「……大丈夫?」


 俺から少し距離をとった雨笠。しかしその距離は、最初と比べると格段に近づいている。


「ああ、何か体が凄い軽いんだ!!」


 俺は立ち上がり、腕をぶんぶんと振るって自分の快調さをアピールする。

 雨笠は無表情を崩して、その口元に若干の微笑を浮かべた。

 彼女の笑顔は破壊力がヤバい……あれ、破壊力って言えば……。

 

 俺は突如現れたあの剣を探して見たが、どこにも落ちていない。もちろん俺の手元にもない。

 見えるのは、あの剣によって刻まれた自然破壊の後だけである。モンスターの死体はあの一撃で跡形もなく消え去っているし、どう考えてもオーバーキルである。


 あの剣に関係しているのは、恐らく【守護者のアミュレット】だろう。

 詳しいことはわからないが、あの剣はこの宝石の光に呼応して出現したように思える。


「いやぁ、不思議だな……」

「……あの画面を見てみたら、何かわかるかも」


 雨笠がそう言う。何か根拠があるようで、俺は一つ頷くと彼女の言った通り、指先で頭を叩いてあの画面を出現させる。


 荻野代一ogino yoiti

 レベル:4(↑3)

 スキル:【見習い剣術】

 武器 :【丈夫な木の枝】

 防具 :

 装身具

:【守護者のアミュレット】


 お、画面が変化してる。

 レベルが4に上がっているのは、あのモンスターを倒したからに違いないだろう。

 スキルの欄には新たに【見習い剣術】の文字がある。


 装備品の項目が新たに細分化されてる。守護者のアミュレットは装飾品に分類される装備品であるようだ。

 それに、土壇場で拾った木の枝もきちんと武器として認識されている。

 そう言えばどこに落したっけ……と木の枝を探そうとすると、右手に何かが出現した。

 間違いなく、あの木の枝だった。


「レベルが4に上がってたよ」


 俺は雨笠に報告する。すると彼女は頷く


「私も3に上がってた……。だけど、あのモンスターを倒したのは……荻野、君だし……。どうしてだろう……?」


 俺の名前を呼ぶ辺りで赤面する彼女に激しく萌えたが、あえてそれには触れないで置くことにする。


「……多分だけど、俺と雨笠さんは仲間みたいなものなんじゃないかと思うな」

「仲間……?」

「うん。だから俺があのモンスターを倒したとき、レベルを上げるのに必要な経験地みたいなものが、俺だけじゃなくて雨笠さんにも分け与えられたんだよ。レベルから見ると、多分倒した本人が一番経験地を得られるみたいだね」

「なるほど……」


 感心したように頷く雨笠。まるでゲームみたいな設定だが、それが現実であるので仕方が無い。


「それから、この木の枝何けど……」

「それがどうかしたの……?」

「見てて」


 俺は木の枝を茂みの方へと放った。

 そして手元に戻ってくるように念じる。

 再び俺の手の中に現れた木の枝に、雨笠さんは無表情を驚愕の色に染める。


「実はこれ、装備品の武器の項目で【丈夫な木の枝】って名前でかかれてたんだ。多分、今の俺はこれを装備している状態。で、推測なんだけど、装備品は離れたところにあってもそれを念じれば手元に戻ってくるみたいなんだ」

「……不思議」

「全くだね」


 本当に不思議なことばかりである。

 レベルにしても、それが上がることで俺が強くなっているのかどうかさえわからない。

 それに、【守護者のアミュレット】の効果も。剣を呼び出すのがその能力なのだとしても、その条件がわからない。

 試しに剣よ来いと念じてみるが、アミュレットはうんともすんとも反応を見せない。


「あの……」

「どうしたの?」

「【白魔術】のことで……わかったことがあるの」


 雨笠さんの話を聞いて、俺はスキルと言うものの凄さを思い知った。

 彼女の【白魔術】――ヒールと言う呪文は、触れた相手の疲労を回復させる効果を持っているらしい。

 俺の体が軽いのもそのおかげだったのだろう。


「そっか……ありがとう、雨笠さん。あのままだったらすぐには動けなかっただろうし……うん、本当に感謝だよ」


 俺の言葉に、雨笠は首を横に振る。


「ううん……大したことじゃないし、それに……助けてもらったのは、私の方だから、そ、その……ありがとう……っ」

「え、あ……どど、どういたしましてっ!」


 照れながら俺を言う雨笠が余りに可愛すぎて、つい言葉に詰まってしまった。

 俺の顔は今真赤になっているだろう。けれど、俺の視線の先にいる雨笠の顔も真赤だ。

 二人の視線が交差する。


「ぷっ、あははっ! お互い様ってことだね」

「ふふ……そう、だね……」


 こみ上げてくる笑い、楽しい気持ちを、二人で共有する。

 もし俺が一人だったら、こんな風に笑うこともなかっただろうな……。


「ありがとうね、雨笠さん」

「理乃、で良いよ……?」

「じゃあ俺のことも代一でいいよ」

「……うん。わかった」


 下の名前で呼び合うことになり、俺たちの絆はやっと確かな形で深まったような気がする。


「そう言えば、スキルのことなんだけど。実はいつのまにか【見習い剣術】って言うスキルが増えてたんだ。これってどういうことだろう?」


 俺の疑問に、理乃は「う~ん」と唸って首を傾げる。


「わからない……けど」

「けど?」

「多分、あのモンスターを倒したことが、関係しているような……気がする」


 自信なさそうに言う彼女だったが、それが一番高い可能性を持っている答えように感じた。


「そうすると、剣を使って倒したから見習い”剣術”ってことなんだろうね」


 俺の言葉に理乃は頷く。


「じゃあ、特定の行動をするとスキルは増えていくのかな?」

「その可能性は高いと思う……」


 だとすると、俺もいずれは理乃の【白魔術】のように便利なスキルを修得することが出来るかもしれない。

 理乃も、いずれは空を飛ぶスキルを修得できるかもしれないな。そのことを彼女に告げると……。


「…………」


 言葉こそ無かったが、目をきらきら輝かせて、私わくわくしてます! 感を全身を用いてアピールする彼女を俺は見た。

 これは、あまり根拠のないことは言わないほうがいいかもしれない。もし後になって、そんなスキルは存在しないと言うことになったら大変だ。


 それから二人で今後のことについて話し合った。

 【守護者のアミュレット】とあの剣の関係は未だはっきりしないし、レベルが上がったとは言えモンスターと戦う危険は出来るだけ避けたほうが良い。

 理乃もこの意見に同意してくれた。


「じゃあ、なるべくモンスターに出会わないよう、まずはこの森を抜けて人のいる場所を目指すことにしよう」

「うん……!」


 大きく頷く理乃。

 本当は不安で一杯なのだろうけど、そんな素振りを俺には見せず、気丈に振舞っている。

 俺はそんな彼女を、どんなことがあっても守るのだと心に誓った。

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