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クリスマスの男

作者: 福モチ

 仕事終わりの十二月二十四日二十時二十四分、おれは雪の降る住宅街を歩いていた。

 おれは肩に大きめの白い布袋を引っかけ、全身赤色の白いふちどりのファーがついたごわごわした服を着ている。同じような配色のブーツが立てるサクサクと小気味良い音と、静かに降る雪の音が静かな町に響く。

 世間さまがクリスマス・イブと称していちゃこらしているこの日に、おれは一人、サンタの扮装をして姉の家に向かっている。決して寂しさから姉のクリスマス会に混ぜてもらおうとか、そういうわけではない。おれの目的は姉ではなく、その子供たちに合うことだ。

なんと、姉の子どもたちはこのめでたい聖夜に兄弟二人で過ごしている。姉も、本当は家を空けたく無かったのだが仕事でどうしても帰れなくなったとため息をついていた。

話を聞いたおれは、姉に子どもたちと一緒にクリスマスを過ごすことを提案した。どうせなら、サンタの格好をしたほうが二人も喜ぶだろうと言ったら、姉は少し考えていたが笑顔でうなずいてくれた。

二十四日は早めに帰れる予定になっていたし、家に帰っても待っているのは由有子ちゃんの写真集くらいだ。だから、今年もコンビニで安いケーキでも買ってお一人さまクリスマスを過ごそうと考えていた。それならば、親のいないクリスマスを過ごす子どもたちに夢と希望を届けたほうがずっと楽しいだろう。

暗い視界のなか、かろうじて「大橋」と書かれた表札を見つけ、おれは門を押し開けた。広めの石の階段をのぼり、ドアの前に立つと明かりがともった。ごくりと唾を飲み込んで、ひとつ深呼吸する。吐き出した息が寒さで白くなるのを見ながら、おれは控えめにドアをノックした。

子どもたちが出てきたらなんて言おうか、やはり無難におめでとうだろうか。


「メリークリスマス! 君たちにプレゼントを届けにきたよ!」


 そう言って両手を広げるサンタに、目をきらきら輝かせた子どもたちが駆け寄る。サンタさんなのかと質問する子どもたちに、おれは笑顔でそうだと答える。きっとプレゼントをせがむだろうから、慌てて袋から用意していたプレゼントの箱を取り出す。

 青や赤のリボンで飾られた箱を目にした子どもたちは、顔いっぱいに笑顔を浮かべてプレゼントを受け取る。子どもたちにとって、この日は最高の思い出になるだろう。サンタに会えたと、学校で自慢できるかもしれない。


 これで行こうと決意して、おれは子どもたちが出てくるのを待った。


 ところが、いつまでたっても人の来る気配はない。部屋の明かりはついているから、もう寝てしまったということは無いだろうに。

 首をひねって子どもたちが来ない理由を考える。すぐに、音が小さくて気がつかなかったのだと思いつき、おれは仕方なくもう一度ドアを叩くことにした。今度はさっきより強くドアをノックする。

 ドンドンとはっきり音が出て、これはさすがに聞こえただろうと子どもたちを出迎える準備をする。袋は邪魔にならないように隅へ置いて、子どもたちの笑顔を想像して白いつけ髭の下で笑みをつくった。


 しかし、やっぱり子どもたちは出てこない。おかしいなと顎に手を当てて理由を考える。

おれは、なかでゲームでもしていて聞こえていないのかと結論づけた。お母さんもお父さんも帰ってこないから、二人でテレビゲームに夢中になっているのかもしれない。

 仕方なく門の前へ戻り、表札の横にある丸いボタンを押した。ピンポーンとポピュラーな電子音が夜の空気にこだまする。

 ところで、この場合おれはなんと言えばいいのだろうか。インターホンに向かって、自分はサンタだと名乗るのは妙に感じた。

 そんなことを悩んでいたら、目の前に赤いランプがついて女の子の高い声がした。

「はーい」

「あっ、夜分遅くにすみません。サンタクロースです。きみたちに夢と希望を届けにきました」

「えっ?」

 しまった!子どもに対して妙なことを言っちまった!

 かなりいぶかしげな声を返されて、おれは焦ってしまった。夢と希望ってなんだよプレゼントじゃねえのかよと心のなかでツッコミを入れつつおれは慌てて言葉を続けた。

「キミたちにクリスマスプレゼントを届けに来たんじゃよ!ハッピーメリークリスマスイブ!」

「あの、だれですか?おじさん」

 口から出てきたのはとんでもなく意味のわからないフレーズだった。これは本格的にまずいと感じ取る。女の子の反応は道端で怪しいおじさんに話しかけられた感じのそれだ。

 頭のなかが混乱しているおれをよそに、女の子はインターホン越しに決定打をはなった。

「すみません、おかあさんが知らない人はあげちゃだめって言ってて。それでもって言うなら……おまわりさん呼びます」

「すいませんでした」

 おまわりさんという単語だけは頭のなかにスっと入ってきて、おれは即答した。

 ブツッと通信が切れる音とともに赤いランプが消える。ドアの前の明かりはとうに消えていて、おれは暗いなか立ち尽くすしかできなかった。


初投稿です。クリスマスのイルミネーションはきれいですね。

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