サイは投げられた
靴の中に画鋲が入っていた。
それだけのこと。
「いやがらせでしょ」
「間違いなく」
「絶対に」
断言する三人に、あたしはタコさんウインナーを口に入れて嫌そうに眉を顰めた。
「ただ入っちゃっただけかもしれ」
「まさか」
「ないない」
「あんたの靴箱、一番上でしょ?ありえないって」
うっと言葉につまると、三人はここぞとばかりにまくし立てる。
「だからやめなよっていったのに」
「あんな顔だけ男」
「遊びなれてそうだし、取り巻き多いし」
「あ、赤坂君は良い人だよ。初デート、20分も遅刻しちゃったのに待っててくれたし」
「えー?普通じゃん」
肩を竦めたロングストレートの少女に、あたしはぷぅと頬を膨らめた。
「紫野ちゃん、1分遅れても怒るでしょ」
「そりゃ、アタリマエでしょ」
しらっという紫野ちゃんに怒る気も失せて、あたしはもう一つのタコさんウインナーを口に入れる。
「でもさ、なんであいつなの?」
「あんたが軽々しくOKするなんて思えないから、もともと好きってことでしょ?」
どうなのよ-ずいずいっと迫られて、あたしは危うくタコさんウインナーを喉につまらせるところだった。
「ひ、秘密だよ。先に行くね」
ばたばたとお弁当を片づけて、あたしは屋上から逃げ出した。
「流石に、いえないよねぇ」
あたしはぽつりとひとりごちて、階段を下る。
学年一のモテ男、赤坂君に頼まれて、偽彼女をやっているなんて知ったら、きっと人の良い三人は彼のところに文句をいいに行くに決まっている。
けれど、それでも
「近くにいられて嬉しい、なんて、もっといえないよねぇ」
小さい頃に一緒に遊んだ。
あの頃は髪も染めていなくて、カラコンも入れていなくて、散々苛められていた。
でも彼だけは唯一仲良くしてくれた。
母国から、またこの国に戻ってきて再会できるとは思っていなかったから、傍にいられるだけで十分。
『Alea jacta est』
あたしがママから聞いたこの言葉を思い出すのは、もう少し先のこと。
彼とあたしとあの三人を巻き込んで、物語はもう動き出していた。
【三題噺】初デート、がびょう、サイコロ