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01 名前と賞金

 「待ってよ!」


後ろを振り返るとロンがあわてて走ってくるのが見えた。靴紐を結びなおしていたらしい。

「そんなに急ぐことないじゃん、ソフィア!」

「何言っているのよ、ロン!ようやくあの小さな村から出れたんだから!それだけでも急ぐ理由になるわ。冒険、世界が私たちを待っているのよ!」

私は彼の方に振り返った。

「それに昨日まであんなに、はしゃいでいたのはどこの誰かしら?」

「そ、それは…」

ロンは痛いところを着かれ、気まずそうな顔をしている。そう、今日が旅立ちの日。ようやくあの小さな村から出れた。ようやく自由に旅が出来る。ドレイクに着いて、ギルトに登録すれば、私も冒険者になれる。どれだけこの日を待っていたことだろうか。


「ソフィアだって…」

ロンが言い返してきた。別に反論はしない。だって本当の事だもの。ふと気づくと私はペンダントを握り締めていた。

「長かったね。まだこうして村の外を歩いていることが信じられないよ」

ロンがまるで独り言のようにつぶやいた。

「私だってそうよ。まるで夢のよう。もう村の掟に縛られる事もない。それにおさのお説教とも無関係。こんなにうれしいことはないわ」

そう言ったらロンが笑い出した。

「確かに。長様の話はいつも長いからね。ソフィアはよく怒られていたよね」

「どうせ、私は脱走常習犯ですよーだ。でも今日でその肩書きともお別れ。大手を振って出てきたんだからね。あぁ、早くドレイクに着かないかしら!」

「ったく、ソフィアは気が早すぎるよ。まだ村を出て三時間ぐらいしかたっていないって言うのに。ドレイクは仮にも王都なんだからね」

「そんな事、ロンに言われなくてもわかってるよ、いくら私たちでも4日はかかるって事ぐらい」


そんな他愛もない話をしながら、私たちは街道を歩いていった。朝霧に包まれていた谷は日が昇ると共に晴れ渡り、空は雲ひとつない晴天となった。街道をすこし外れ下った所を見ると、川が流れていることに気づいた。私は前を行くロンを呼び止める。

「ねぇ、そろそろお昼にしない?」

「うん、良いね。すこし小腹がすいてきたところだった」

「じゃあせっかくだから下の川原で食べましょう」

私は返事を待たずに、坂を下る。

「あっちょっと待ってよ!」

ロンもあわてて着いてくる。一足早く川原に着いた私は荷物を降ろすと、そっと川の水を掬い上げ、喉を潤した。冷たい川の水が、まるで疲れを癒してくるかのようだ。

「おいしい」

振り返るとロンもようやく来たところだった。荷物を降ろすや否や、彼はまるでしりもちをつくかのようにドスンと川原に座った。

「なあに?もうそんなに疲れたの?修行不足じゃないの?」

そういいながら私も傍に座った。

「体力馬鹿のソフィアとは違って、僕はデリケートなんだよ」

昼食の包みを開け、ロンはニタつきながらパンにかぶり付いた。

「失礼ね。私の剣も昼食にどう?」

とたんにロンの顔色が変わり、パンを詰まらせたのか咽る。あわてて水筒の水をがぶ飲みする。

「悪かった。剣だけは勘弁して。剣でソフィアに叶うはずない」

「素直でよろしい」

私は笑い出した。ロンもつられて笑い出す。


 「ガサッ」

その音が合図だったのか、後ろの茂みから一人、そして前の茂みから二人出てきた。私たちを囲むようにして立つ。一人は斧を、残りの二人は剣を持っている。多分威嚇しているつもりなんだろう。

「ずいぶんと楽しそうじゃないか、お穣ちゃんたちよ」

ボサボサなひげを生やした男が話しかけてきた。馬鹿でかい斧を持っている。かなりの重さがあるのではないだろうか。多分残り二人のボスのようなものだろう。

「なあに、おじさんたち?」

「楽しんでいるところ悪いんだが」

「金目の物をだしな!」

今度は子分の二人。ニタついた顔が気持ち悪い。

「おじさんたち、山賊って事?」

「そうだ、わかったらとっとと金…」

同じ台詞をなんども聞くつもりはない。

「名前と賞金」

私の言葉に親玉はとぼけた顔になる。

「名前と賞金はいくらかと聞いているんだけど…」

私はそういい最後の一口を口に放り込んだ。

「ズダルク、1550ジュールだが…」

素直に答えるなんてホント、とぼけた人。そのあと何か言ったけど、別に気に止めなかった。私はロンの方を向く。

「ねぇ、どう思う?」

「まあちょっと安いけど、良いんじゃないのかな?あって困らないよ、1550ジュール。食後の運動にもちょうどいいんじゃないかい?」

「だよねー。決定。ロン、荷物とついでにそっちの、お願いね」

私は立ち上がった。振り向くと、ズダルクは顔を真っ赤にし、震えている。

「さっきから聞いていれば、貴様らぁ…!」

「おい、あの娘、親分を本気に怒らせちゃったぜ…」

「かわいそうに。あの子、死ぬぜ」

そう後ろの方から囁くのが聞こえた。まあ、見てらっしゃい。

「無視、それに加え俺様を馬鹿にしやがってぇ…!素直に金を出せば逃がしてやるつもりだったんだが、もう許さねえ!!!」

そう叫ぶと斧を振り上げ、襲い掛かってきた。でも頭に血が上った状態での攻撃、当たるはずがない。簡単にかわす。振り下ろされた斧はそこにあった岩を粉々に砕いた。

「へぇーすごい力だね」

私とズダルクを見ていて、子分たちは戦意を失ったらしい。ロンは子分たちから簡単に武器を取り上げると、ちょっと離れたところで二人と私達を観戦している。ズダルクはぶんぶんと斧を振り回す。

「くそぉ!ちょこまかと逃げ回って…!」

私が避けるごとに彼の怒りの度合いが増すらしい。もうまるで怒り狂った暴れ牛だ。

「ふふ。馬鹿力だけあって、スピードはいまいちね」

「この小娘がああぁ!!!」

怒り大爆発というところだろう。けれどそういう瞬間が一番大きな隙を生む。攻撃を避けた瞬間、私の足は彼の頭を直撃した。彼は反動で斧を落とし、まるでスローモーションのようにゆっくりと倒れる。


「やりすぎだよソフィア」

ロンがしゃがみこみ、気を失った男をつついている。

「大丈夫よ。殺してはいないし、水でもぶっ掛ければすぐに気づくわよ。まあ当分、頭痛持ちになるとは思うけどね」

「あ、ははは。頭痛持ちねぇ…」

ロンがあきれたように笑っている。

「何よ…」

「何も」

ロンをにらみつけると、彼はあわてて口を閉じた。

「そこの二人」

「ひっ」

呆然としていた子分たちに声をかけると、二人はあきれたような声をだし、飛び上がった。

「何よ、人を化け物みたいな目で見て…。あんたたちの親分でしょ!手当てしてあげなさい!」

そう怒るとまた二人は飛び上がった。

「はいぃぃぃ!」

あわてて動き出す。五分もしないうちに、ズダルクは気がついた。

「いつつつつつ…」

頭を痛そうにさすっている。

「親分!」

「俺は…」

「気がついた?」

自分を見つめている人物が私だと気づくといきなり大声を上げた。

「お前は!って、つつつつ」

途端に頭をまた抱える。大声を出すと頭に響くらしい。

「行きましょう、ロン」

私は自分の荷物を担ぎ上げた。ロンは一瞬、えっ?という顔をしたが、私同様、荷物を担ぎ上げる。

「ソフィアが良いなら…」


私たちが街道に向かおうとすると、ズダルクに呼び止められた。

「情けなんていらねえ」

私は振り返った。

「別に、かけたつもりはないけど?」

「じゃあなぜ?お前さんは俺の賞金目当てだと思っていたが」

「あなたと戦っただけで満足した、って理由じゃ変?あとあなたの賞金低いし。あなたの賞金ぐらいなら、私、すぐに稼ぐ自信あるし」

「ふっ」

彼は鼻で笑った。まるで別人のように穏やかな顔をしている。さっきまであんなにかんかんに怒り狂っていたとは信じられない。

「最初から、最後まで言いたい放題だな。さっきの…お前の実力のどのくらいなんだ」

「言ったでしょ。食後の運動だって」

「あれで食後の運動か。穣ちゃん、お前さんはほんと、ずいぶんな化け物だな」

「女の子を化け物扱いするなんて失礼ね。ねえ、そろそろ行っても良い?私たちも暇じゃないのよ」

私はまた街道に歩き出そうとした。

「じゅあ、最後に一つだけ。穣ちゃん、名前は?」


「私の名前はソフィア。覚えておくと良いよ。絶対有名になるから!」


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