お菓子つくって待ってるね
ちょっと早起きして、
この小説を見つけてくれたあなたに捧ぐ
「おはよう、早起きですね」
同居人のハルが微笑みかける。リビングの椅子に腰掛ければ、キッチンからは甘い香りが流れてきた。
「紅茶はアッサムでいい?」
問いかけに頷いてみせれば、はーいと気の抜けた返事が返ってきた。しばらくしてハルが持ってきたマグカップでは、白い湯気が揺らめいている。
テーブルの上のはちみつの瓶を開け、ティースプーンで掬う。熱々の紅茶に垂らすと、あっという間に溶けて消えた。
外はまだほの暗く、やけに静かだ。この肌寒さでは紅茶もすぐに冷めてしまいそうで、早々に口を付ける。早朝の匂いとアッサムの芳醇な香りが混じり合って、体の中を駆け巡る。
ハルも冷蔵庫に寄り掛かって紅茶を飲んでいた。基本的にはめんどくさがりなくせに、いつもこの朝の時間だけは早起きして待っている。なんとも不思議な人間だ。
そのときオーブンから軽快な音が鳴った。ハルが開けると一気にの香ばしい香りが広がる。小麦粉、バター、砂糖。それから干し葡萄とレモンピール。パウンドケーキだ。
ハルのパウンドケーキはいつも決まってこれ。表面はサクッと硬めに焼き上げた、アッサムによく合う焼き菓子。切り分けたハルが2人分の皿を持って隣に座った。
「よければどーぞ」
「ありがと」
いつものやりとりを交わし、フォークを入れ、一口。温かい。干し葡萄の、甘みに隠れた微かな酸味。レモンピールはほろ苦くて良いアクセントになっている。少し冷めた紅茶で喉を潤せば、思わず嘆息が溢れそうになった。
隣でご機嫌にパウンドケーキを味わうハルは呑気に鼻歌を歌っている。もう一度「ありがとう」と伝えれば、ハルは「おはよう」と返した。
これが幸せの形なのかも、なんて。柄にもないことを思ってしまうくらいには、自分もこんな朝を気に入っているのかも。これではハルを不思議な人間だと笑えないな。
温かいパウンドケーキをもう一口頬張った。
おはようございます
あなたの一日にちょっといいことがありますように




