第9話:龍王の使いイグナスです。
前回、龍脈書院からスカウト書状が届きましたが、読まずに本棚の隙間へイン!
それを見かねた龍王が使いを派遣。
新しい診療棟にも、すっかり人が集まるようになったころ
診療所は午前中から混み合っていた。
「昨日の灸、またお願いします!」
「肩の“ゴリッ”て取れたやつ、あれもう一回!」
「友達が“刺してもらったら寝れた”って言ってて……」
魔法師たちが列を成し、受付のリリナはほぼ目を回していた。
そんな中──
「……来ました」
ハチが、ぴくりと耳を立てた。
「空から来た。風が違う」
ルカも受付カウンターから身を乗り出す。
「え、何か来たんですか? ドラゴン!?」
「ちいさい。“本家筋”の匂いがする」
そのとき──
**ひゅううぅん……**
空から舞い降りる青い影。
小さな龍──イグナスが、診療所に着地した。
「お初にお目にかかります。
わたくし、龍王さまの使い“イグナス”と申します」
ナギは、鍼を拭きながら振り返った。
「こんにちは。診察ですか?」
「いえ、違います。
あなた、龍王さまの使命──スルーされましたよね?」
「……え、何で知ってるの」
「知ってますよ!? ちゃんと書状送ったのに、本棚の隙間にイン!」
「読んだら面倒そうだったから……」
「ですよねぇぇぇぇ!!??」
ルカがひそひそ声で横から。
「……ナギさん、使命スルーってレアなんじゃ……」
「一応、転生してきたらしいから、
選ばれし者ってやつだと思うけどね」
ハチがぽつりと口を開いた。
「選ばれたけど、選ばれる前から“予定が詰まってた”タイプ」
「正確には、神殿巡りより、
今日の寝違え患者の方が緊急性高いって判断したのよ」
イグナスは深くため息をついた。
「……一応確認しますけど、神殿には……行かれない?」
「今のところ、予定はありません」
「使命は……?」
「知らないままにしておきたい」
「っっっ!!!」
ナギは棚から茶葉を取り出し、急須にお湯を注ぐ。
「それより、せっかく来たんだからお茶でも飲んでいく?
湿度が高い日は、体に気がたまりやすいのよ。空飛ぶならなおさら」
「…………」
イグナスはその場でぐったりと座り込み、小さく言った。
「……整えられてしまいそうで、悔しい……
ここはまるで、“本家の中心”みたいだ」




