第7話 診療所は、気に応えて生える
鍼とお灸の評判が広がって、診療所の設立が本格的に動き出しました……が、
そのきっかけを作ったのは、あのルカでした。まさかの才能開花!?
午前中の診療が、ようやくひと段落したころ。
鍼の煮沸を終えたハチが、鍋のフタを**カタン**と閉じた。
「……今日は、もう十二人目だって?」
「うん。ちょっと多かったかも」
ナギは額の汗をぬぐいながら、苦笑する。
受付の前には、肩こり、腰痛、気疲れを訴える魔法師たちが、
まだ何人も順番を待っていた。
中には、二回目、三回目の顔もある。
「やっぱり……診療スペースが足りないですね」
順番札を手に、ルカが言った。
「うん。もう少し広い場所があるといいんだけど」
「それなら……ギルドの裏庭、今、空いてますよ?」
そのとき。
通りかかったギルドのオーナーが、足を止めた。
「ナギ先生。皆さんの評判は、耳に入っています」
そう前置きして、穏やかに続ける。
「もしよろしければ、あの裏庭に“診療所”を建ててはどうでしょう」
「……いいんですか?」
「ええ。あなたは今、このギルドの“気の流れ”を整えてくださっている。
居場所を整えるのも、こちらの務めです」
ナギは一瞬、驚いたように目を瞬かせてから、
深く一礼した。
「……ありがとうございます」
◇◇◇
その日の夕方。
裏庭で、ルカはひとり、空を見上げていた。
風が吹き、草が揺れる。
昼間の喧騒が嘘のように、静かな時間だった。
(ナギさん……)
思い浮かぶのは、今日の診療の光景。
次から次へと患者が来て、
狭い部屋で、休む間もなく鍼を打つ姿。
(もっと……楽に施術できたらいいのに)
(ちゃんとしたベッドとか、道具とか……
休める場所とか……)
その“願い”が、胸の奥で形を持った瞬間だった。
──地面が、淡く光った。
「……え?」
足元から、じんわりとした温かさが伝わってくる。
土の魔力が、ふわりと浮き上がるように流れ出し、
空気が、ゆっくりと脈打ち始めた。
「え……!? な、なに、これ……!?」
地面に、白い輪郭が現れる。
それは、線となり、面となり、
やがて──**建物の形**を描き始めた。
「魔力反応だ!」
「急激すぎる……!」
気配を察したギルドスタッフたちが、慌てて駆けつける。
建築担当の魔導士が、目を見開いた。
「これは……“気に反応して生えるタイプ”の拡張魔法……!
でも、詠唱も陣もない……誰が──」
視線が、自然と集まる。
そこに立っていたのは、
目を丸くして固まっている──ルカだった。
「ぼ、ぼく……なにか、しました!?」
「……やっと、スイッチ入ったのね」
ぽつりと、ハチが呟く。
ナギはそっと近づき、
ルカの肩に、やさしく手を置いた。
「ありがとう」
「え……?」
ルカは、きょとんとする。
「きっと、あなたには“建てる才能”があったのね。
気の巡りと、魔力が……ちゃんと繋がったんだわ」
やがて、光が収まる。
そこに立っていたのは、
白い壁と、やわらかな曲線を持つ──小さな診療棟だった。
窓からは心地よい風が抜け、
中に流れる“気”は、驚くほど安定している。
「ここが……わたしの、診療所?」
ナギが、静かに呟く。
ルカは、少し照れたように、でも誇らしげに答えた。
「……いえ。先生」
「**僕たちの診療所**です」




