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黄龍の診療所 ― 世界を診る気導士、龍界で開業中  作者: 転々丸
異世界で鍼灸師やってます

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3/16

第3話:緊急事態です。鍼が足りません。

ナギは、小さな鞄の中を覗き込んで、小さくため息をついた。


「……やっぱり、あと一本しかない」


特注の銀鍼。

いつもの薬龍堂で注文した、お気に入りの型だった。


ただ、持ってこられたのは、非常用の数本だけ。

昨日の施術で、残りはこれ一本になった。


「ナギさん、大丈夫ですか?」


扉の外からルカが顔を出す。


「オーナー、少し熱があるみたいで

……また見てもらえますか?」


「もちろん。でも、これが最後の鍼なの」


「えっ、それって……」


ルカの顔がみるみる青くなる。


ナギは空になった鍼筒を軽く振りながら、遠くを見つめた。


(この世界で、補充なんて……)


思い出したのは、あの通販サイト。


 **《薬龍堂》**。

こだわりすぎてて不便だったけど

どんな変わった鍼でも揃っていた。


ためしに──脳内で思い浮かべてみる。


(薬龍堂。銀鍼。三寸。特注品。通常発送)


すると、まるで合言葉に応じるように、

視界の端にふわりと表示が現れた。

見覚えのある、古風な通販ページ。


【現在地:異界転移先No.47-E】

【配送方法:特別便可能】

【お届け担当:薬龍堂 認定配達員 No.88】

【到着予定:30分以内】


「……マジで繋がった・・」 ナギは思わず呟いた。


スマホもPCもない、電波も魔力も不明の異世界で

──まさかのネット接続成功。しかも、注文できるらしい。


深く考えるのはあとだ。

(とりあえず、ポチる)←脳内で、これ!と言ってみるの意味。


◇◇◇

30分後。

ナギとルカは、窓辺で妙な気配を感じていた。


「……なんか、外にいますよ?」


「足音、一定。……魔力反応はゼロ。でも、気圧が揺れてる!」


そっと窓を開けると、そこにいたのは──


しなやかな毛並み。

背筋を伸ばし、背中に小さな革鞄を背負っている。


そして、銀の首輪には刻印があった。


 **《薬龍堂配達員 No.88》**


「……注文主の生体IDを確認。納品する」

猫が、人の言葉で話しかけてきた。


挿絵(By みてみん)


「喋った!?」


「猫が喋るの、そんなに珍しい?」


「そりゃあ……まあ、はい」


ナギは驚きを抑えつつ、革鞄から包みを受け取った。


中には、見慣れた三寸の銀鍼が3本。

あの世界で頼んでいたものと、寸分違わぬ仕上がり。


「……本当に薬龍堂。しかも、異世界配送対応とはね」


「“異界転送ルート”は契約範囲に入ってる。

今さら驚かれても困る」


猫はしれっと答えた。

どこか気怠げで、それでいてプロ意識がにじんでいる。


「あなた、名前は?」


「No.88。それが登録名。覚えやすいでしょ」


「じゃあ……“ハチ”ね。

八の字は末広がりで、運気の流れがいいから」


「……まあ、それくらいなら許容範囲」


ナギがそっと頭を撫でようとすると、ハチは少し身を引いた。

が、それでも拒絶はしなかった。


「……そういうの、あまり得意じゃない」


「撫でられるのが?」


「懐くのが」


そう言いながらも

ナギの足元に静かに座り、しっぽを揺らす。


「それにしても……どうして……」

ハチは、ナギをちらりと見た。

だが、すぐに首を振る。


「……ううん。気のせいね」

結局、ハチはそれ以上何も言わなかった。


何を口にしかけたのかは分からないまま、

ただ尻尾だけが、ゆっくりと揺れていた。


その仕草に、ルカがぽつりとつぶやく。


「……ツンデレだ」


「違う。私は仕事してるだけ」


「仕事、終わったんじゃ……」


「確認と次の案件があるか、様子を見てるだけ」


「つまり、居座る気……?」


「滞在。短期」


ナギは小さく笑って、鍼筒に新しい鍼を収める。


「ありがとう、ハチ。おかげで助かったわ」


「……仕事で感謝されるの、嫌いじゃないけど。慣れてない」


「じゃあ、これから慣れていけば?」


「……気が向けばね」


そのまま、ハチは椅子の上に飛び乗って、丸くなる。


「今日はここで休ませてもらう。明日は考える」


「いいわよ。気が整ってる空間は、猫にも優しいらしいし」


「……そういう理屈、嫌いじゃない」

静かに、部屋の空気が落ち着いていく。


鍼も手に入った。施術も続けられる。

そして──新しい、少し気難しいけど頼れる相棒も。


この世界で、ナギの“気導士”としての日々が、

またひとつ形になり始めていた。


【配達員:No.88・通称ハチ】

挿絵(By みてみん)

薬龍堂から特別配達で現れる猫。

登録名は「No.88」だが、ナギによって“ハチ”と名付けられる。


ツンデレ。

喋る。

プロ意識が高く、薬袋の重さにはやや不満あり。


「感謝されても、別に……嬉しくなんてない」

と言いつつ、耳がぴくっとしてる時点でバレている。



ご覧頂き、ありがとうございます(*^-^*)

毎週火曜日と金曜日20時に開院します☆

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