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黄龍の診療所 ― 世界を診る気導士、龍界で開業中  作者: 転々丸
異世界で鍼灸師やってます

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2/15

第2話:気導士?それって魔法職じゃないんですか?

草原を抜けて、丘をひとつ越えた先。


そこには、木と石で組まれた──ちょっと古びた──建物が立っていた。


「ここが、冒険者ギルドです!」


元気よく腕をあげるルカ。その声に、ナギはふと眉を上げる。


「……ギルドって、もっと石造りで要塞っぽいと思ってたけど。

こじんまりしてるのね」


「ここ、村の分館なんですよ。

登録とか依頼の受付だけなら、このくらいで充分ってことで!」


なるほど。じゃあ、本部はもうちょっと派手なのかもしれない。


ナギは深呼吸した。

まだ、眉間──印堂のツボは、ほんのりあたたかい。

気がゆるやかに巡っている証拠だ。


(ほんとに、ここ異世界なんだな……)


しみじみと現実を噛みしめているうちに、

ギルドの扉がぎぃ、と音を立てて開いた。


「こんにちはー!」


「ルカくん!? 無事だったの!?」


カウンターの奥から現れたのは、腰まで髪を束ねたお姉さんだった。

年の頃は……二十代後半? しっかり者系美人、という雰囲気。


「崖下に人が倒れてたんです! この人、光ってて……」


「光る? それって魔法の話?」


「ううん、気導士らしいです!」


挿絵(By みてみん)


「はぁ……?」


案の定、お姉さんの眉がぴくりと動いた。


ナギは一歩前に出て、軽く会釈する。


「こんにちは。私はナギ。“気導士”です」


「き……導士……?」


「人の“気”を見て、整える仕事。

東の世界では普通の医術だけど、こちらでは馴染みがないみたいね」


すると受付嬢さん──胸の名札には《リリナ》と書かれていた

──は困ったように笑った。


「す、すみません。ギルドの職業登録に“気導士”って職種はなくて

……魔導士や回復術士なら分かるんですが」


やっぱりそう来たか。


ナギは内心ため息をつきつつ、リリナさんの後ろの帳簿を覗き込む。


「職業が載ってるリスト、見せて下さる?」


「えっ、ええと……はい、どうぞ」


びっしり書き込まれた職業一覧。


 《火術師》《風の矢使い》《治癒魔導士》《召喚士見習い》

──なるほど、だいたい想像通りのファンタジー職。


だが、“気”の概念がまったく見当たらない。


(つまりこの世界では、気の流れや経絡は“可視化”されてないのね)


ナギはふと視線を感じた。ルカが、じーっとこちらを見ている。


「ナギさん……なんか、眉間がまた光ってますけど、大丈夫です?」


「……おそらく、気の反応ね。なんか、建物の奥がざわざわしてる」


「奥……ですか?」


ナギは目を細めた。

気配の流れが変わっている。

カウンターのさらに奥、裏の扉の向こうで、詰まっているような感覚。


それは、人の気というより、建物そのものの呼吸のようだった。


湿った空気、停滞する気……これは、どこか身体に異常があるサインだ。


挿絵(By みてみん)


「リリナさん。あの奥の部屋、誰かいますか?」


「えっ? あ、はい。ギルドのオーナーが、

最近ずっと寝込んでいて……病気みたいなんですが、

魔導士の回復も効かなくて……」


それだ。


「案内してもらってもいいですか?」


「え、でも、登録もまだですし、見知らぬ人を──」


「大丈夫。私を信じて。」

そう言われると、逆らえない何かがナギには備わっていた。

◇◇◇

ギルドの裏手にある部屋は、思ったよりも簡素だった。

木の窓から差し込む光の中、ベッドには一人の男性が横たわっていた。


白髪交じりの髭。頬はこけており、見るからに体調が悪そうだ。


「ご家族もおらず、ずっとここで寝たきりなんです

……食事もあまり摂れてなくて」


リリナがそっと言った。


ナギは静かにベッドに近づき、男性の手を取り、指先に軽く触れた。


(脈が浅い。けど、全体の気の流れがおかしいわけじゃない……これは)


彼女は胸元のポケットから、“非常用の鍼セット”を取り出す。

何かあった時のために、いつも持ち歩いているのだ。


透明の鍼筒。細く、しなやかで、どこまでも鋭い。


「な、ナギさん!? それって、武器……?」


「違うわ。これは“調律の針”。人の気を整えるためのもの」


ナギは素早く、老人の胸元を軽く押した。

すうっと指先が止まったのは──“中府ちゅうふ”のツボ。


「ここだわ」


すっ、と鍼を抜き、慎重に刺す。


その瞬間──


 **ふわっ**と部屋の空気が一変した。


白く、優しい光が鍼先から溢れ、男性の身体に染み込んでいくような錯覚。


ルカが目をまん丸にして叫んだ。


「な、な、なんか出たー!? 光のパワー魔法!?」


「パワーとかじゃなくて、気の滞りがほぐれたのよ。中府は呼吸器系の要。

ここの流れが塞がると、全身が酸欠になるの」


「な、なるほど……さすが気導士さん!」


ほどなくして、男性が微かに呻いた。


そして、うっすらと目を開ける。


「……ん、ここは……?」


「オーナー!? オーナー!?」


リリナが慌てて駆け寄る。老人は、ゆっくりとナギを見た。


「……あんたが、助けてくれたのか?」


「少し、気を通しただけです。しばらく安静にしていれば、回復しますよ」


「……すまんな……変わった癒し手だな」


ナギは小さく笑った。


「変わってるのは、昔からなんで」


◇◇◇

その日──ナギの“気導士”としての初めての施術が終わったあと

ギルドでは、ちょっとした騒ぎになっていた。


「なんか、外にまで光が漏れてたらしいよ!」


「魔導士でもできない技術だって!」


……まるで都市伝説の誕生だった。


「ナギさん、登録の件なんですが──」


再びカウンターに戻ると、リリナが手を合わせていた。


「“気導士”って枠はないんですが、

臨時職で“ヒーラー扱い”なら登録できます!」


「それでいいわ。よろしくお願いします。」


ナギはそう言いながら、ふと天井を見上げた。


 ──この世界には、まだ見えてない“詰まり”がたくさんある気がする。


(だったら、わたしのやることは一つね)

新しい世界での“気”の流れが、確かに彼女を歓迎しているようだった。



ご覧頂きありがとうございます(*^-^*)

次回から、毎週火曜日と金曜日の20時に開院します☆


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