第10話:龍王の使い、小竜イグナスの居候が決定?
「……で、どうしてイグナスが鍼の煮沸してるの?」
ナギは目の前の小鍋と、
その上で真剣な顔をしている小竜を見つめた。
「視察中の居候ですので、共同作業くらいは」
イグナスは神妙に、火加減を確認している。
「いや、君、本来は使命を伝えるために来たんじゃ──」
「でも、その“使命”、スルーされたので」
「だからって居候……」
「だって診療所、居心地いいんですもん」
ハチがその横で、しっぽをぱたぱた。
「一日で適応しすぎ」
ルカがニコニコしながらお茶を出してきた。
「イグナスさん、猫舌じゃないですか? 熱いの平気です?」
「ありがとうございます
ぼく竜なんで。火属性少し入ってます」
ナギは腕を組み、やや呆れ顔で言った。
「じゃあ、せめて何か手伝って?」
「はい。では──」
イグナスは小さな翼で舞い上がると
カウンターの棚に止まった。
「来院者の魔力属性、上から順に分類しておきました。
光・闇・火・水・風・土・その他、“未分類(脈が読めない)”は別枠で」
「……何それ、めちゃくちゃ有能じゃない……」
リリナが慌てて帳簿にメモしに行く。
その時、診療所の扉が開いた。
「すみませーん! 足首が変にこわばって……」
現れたのは、雷属性の見習い魔法師らしき少女。
「最近、魔法撃ったあとしばらく感覚が抜けなくて……」
ナギはにこりと微笑んだ。
「大丈夫。じゃあ今日は“解雷のツボ”でいきましょうか」
「そ、そんなのあるんですか!?」
「うちの診療所は、なんでも作りますから」
イグナスが鍼箱を差し出す。
「中足骨の外縁に一本。放電を和らげる経絡です」
少女がぽかんとしている間に、ハチが静かに補足。
「鍼灸界のベンチャー、ここにあり」
そして、施術後──
「わ、足が……すっきりした……!」
「それ、雷がちゃんと流れてくれた証拠よ」
「ありがとございますっ!」
少女が去ったあと、イグナスがそっとナギに尋ねた。
「……ねえ、ナギさま。
本当に、使命とか龍界の再生とか、やる気ないんですか?」
ナギは笑って答えた。
「うーん、今のところ診療所再生の方が忙しいからね」
イグナスが、ほんの少しだけ──
その小さな鱗の奥で、笑ったように見えた。
それは、“探していたものを見つけた”者の目だった。




