4. 太陽の塔
次の日の朝、レイヴたちは早起きをして出発の支度を始めた。この辺りもまだ日光は差し込まないが、夜よりは視界が明るい。
その後も休みを重ねながら、ようやく太陽の塔が見えてきた。
「これが太陽の塔……」
初めて近くで見る太陽の塔は、ドナの想像とは全く異なっていた。太陽の塔の周囲の塀には蔦や蔓が伸びていて、塔の壁は苔が広がっていて元の色がわからない。辺りには機械の破片やらアルミ製の円盤やらガラクタが散乱している。村人から毎月多額の金額をしているのだから大きくて綺麗で最先端な建物なのだろうとドナは内心楽しみにしていたのだが、予想とのギャップに肩を落とした。綺麗どころか、誰も清掃していないに違いない。……もはや人の気配すら感じなかった。
「ごめんください……」
外から声をかけてみたが、誰も返事がない。2人は顔を見合わせて、重たい扉を開けた。
そこには日光浴の日に使う装置や他の機械やらが置かれていて、そのどれにも白い布が被せられている。どこかに穴が空いているのか、びゅーびゅーと風の通る音がする。やはり、人の子ひとりいないようだった。
「誰もいないのかな?……今日はお休みの日だとか?」
ふと、ドナは一際明るい筋のようなものが降り注いでいることに気がついた。周りに舞う埃がその光に当たってキラキラと輝いて見える。
「これは……ライト?…いや、お日様の光?」
「そう、太陽の光だよ。光芒っていうんだ」
「こうぼう……?」
日光の筋の周りは暖かく上を見上げると、螺旋状に確か続く階段のもっともっと上の、高い壁の隙間から降り注いでいる。
「もしかしたら、あの上に誰かいるかもしれないね」
レイヴの言葉に、ドナはこくりと頷いて螺旋階段を登った。
石造の階段にコツコツと2人分の靴の音が響く。この塔は2階建の家が5つは上に並びそうなほどの高さがあり、10階分の階段を登るにはドナは体力が足りず、すぐに息切れをした。
「ドナ?休む?僕がおんぶしようか?」
「ううん、大丈夫。早く太陽の塔の人に会うんだ」
自分の足で行くんだ!と頑なに断り、最上階へ辿り着くころには鼓動が早くなり息も上がっていた。この塔に入ってから得体の知れない不安感がドナを襲っていた。緊張のせいで、息を整えても鼓動はずっと早いままだ。それは父を元に戻せるのかという不安からなのか、この塔の不気味な違和感のせいかドナにはわからなかった。
扉を叩いても、中から返事はない。恐る恐る、ドナは部屋の扉を開けた。
カッと視界が一瞬白くなり、あまりの眩しさに目を瞑った。もう一度目を開けると、その部屋には暖かな光が満ちていた。太陽の光だ。部屋の天井がガラスになっていて、そこから日光が降り注いでいる。ドナは思わず声を漏らした。
しかしその部屋に人はいなかった。それどころかこの部屋には、大きなベッドや机、書棚が置かれていて、どれもつい最近まで使っていたかのように綺麗に清掃されている。誰かが住んでいる?
「ねぇ、レイヴーー」
ガチャン。勢いよく扉を閉める音がした。
ドナが後ろを振り返った時、レイヴはこちらを見ていなかった。
「フフ、アハハハ……」
「レイ、ヴ?」
レイヴが突然不気味に笑い出した。
「ようこそ、僕の部屋へ」
振り向いたレイヴは、口角だけが頬を引き攣るほど引き上がり、その目は獲物をとらえた捕食者のようだった。