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鳳凰。

子供の頃からそうだった。

俺は、いやっ。人間は、ご褒美があれば頑張れる。

そのご褒美の内容が期待できると判断している状態。

しかも得体が知れない場合、ご褒美の力は無限大になる。

あぁ。ご褒美。素晴らしい言葉だ。


「と、言う訳で天音さん!ご褒美とは?」


「はい。」


「ん?・・・これは?」


「ご褒美の飴だけど。」


「いやいやいや!俺は飴のためにあんなに頑張ったのではない!」


「・・・分かった。」

天音は呆れなが頭を抱えた。


「分かった?何が?」

結人は幼い子供が母親に向ける様な、純真な眼差しを天音に向ける。


「混浴・・・してあげる。」


「ん?えーーー!いいの?!いいの!?」


「でも混浴できる宿探さないと。」


「その点は心配ない。宿は予約済だ。」

結人は頼れる男風に、ドヤ顔を見せた。


「結人、あなた・・・。」


「・・・まぁ、一応。一応だぞ。

奇跡が起こるかも知れないだろ?

だから・・・部屋に露天風呂付きの旅館を選び・・・ました。」


「変態・・・じゃぁ、早く行こ。」

天音は照れを隠す様に言った。


「ま、待ってよ!あっ、旅館はあっち。」


「はいはい。」


二人は旅館の部屋に到着した。


「すげー!」

部屋からは自然の景色が一望できた。

露天風呂には、陶器の丸型の浴槽が置かれている。


「どうする?もう入る?」

結人は嬉しそうに天音に問いかける。


「いいよ。じゃあ先に入って。私、後から入るから。」


結人は、ワクワクしながら服を脱ぎ、腰にタオルは巻く?巻かない?いやっ、巻こう。などと考えながら、湯船に浸かった。


しばらくすると、バスタオル姿の天音が入ってきた。

結人は目を輝かせて見つめている。


「ちょっと!あっち向いて!」

天音は恥ずかしそうに、湯船に近づく。


ザァー。

結人の背中に背中を当てる様に、天音が湯船に浸かると、お湯が湯船から流れ出す。

「二人だと少し狭いね。」


「そ、そうだな。」


(まずい・・・これは想像以上の刺激だ。)

バサー。

結人は突然立ち上がる。


「どうしたの?」

天音は結人をチラッと見た。


「俺・・・もうでるわ。」


「えっ?もういいの?」


「最高のご褒美なんだけどさ・・・これは、最強の拷問でもあった。」


「あら〜。それはそれは。」

結人は、天音を見ない様にしていたが、楽しそうに笑っている様に感じた。

(このドS野郎!)

心の中でそう叫ぶと、結人は脱衣場へと歩いていった。


「結人。」


「えっ?何?」

結人は何かしらの期待を胸に振り返ると、想像していたのと違う、目を細めた天音がこちらを見ている。


「覗くなよ。」


「・・・。」

結人は、混浴は不味かったが、覗くくらいなら。と頭の中で考えていた。

のが見透かされていた。


「黙るな〜!」


「分かったよ。」

結人は寂しそうに脱衣場へ入っていった。


ブクブクブク。

天音は、鼻の下までお湯に浸かった。

(あードキドキした。

でも、結人って真面目だよね。

ちょっとくらいご褒美あげてもいいかなーとか思ってたのに。

・・・ご褒美?例えば?バスタオル取るとか?ちょっとだけ触るのを許すとか?)

「キャー!無理無理!」


脱衣場で浴衣を着ていた結人に、楽しそうな天音の声は聞こえていた。


「天音、何一人でしゃべってんだ?」

(ふっふっふ。ご褒美その2は禁止されたが。ご褒美その3、天音の浴衣姿。これくらいがちょうどいいわ。

混浴はさすがに不味かった。)



結人が部屋でくつろいでいると、浴衣姿の天音が脱衣場から出てきた。


「お待たせ。すごくいいお湯だったよ!」

天音はすごく嬉しそうにしている。


(か、かわいい!浴衣姿たまらん!

天使様ー!尊い!)


「そ、そうか。良かったな。」


「うん!」


(あ〜!たまらん!)

「天音、この後浴衣で観光しよう!」


「観光?行きたい!」


「良し!じゃあ決まりな。」

(これはもう、デートだ!浴衣デートだ!こんなにご褒美もらえていいのでしょうか?)


「それはそうと。」

天音は深刻な顔で結人を見つめる。


「えっ?何?」


「混浴騒動で気づかずにスルーしてたけど、なんで部屋一緒なの!」


「ぎくっ・・・気づきました?」


「はい。」


「混浴する予定だったので・・・部屋も一緒でいいかと。」

結人は、これから説教を受ける事が分かっている子犬の様に天音を見つめる。


「なんだか全部、結人の思い通りに事が運んでて、しゃくにさわる〜。」


「ですよね〜。」


「別にいいけど。ベッドも2つあるし。」


「ふぅー。」


「何がふぅーよ。ベッドは別々で寝るからね!」


「はい。」

結人は、同じ部屋で寝られるだけで今は十分だった。

(ふっふっふ。天使の寝顔を拝ませてもらうぞ!)


「結人、観光行こ!」

天音は何事も無かった様に、結人の手を引いた。

「あ、うん。」


二人は、さっき満喫しそびれた湯畑へと向かった。


「わぁー!すごい!夜はライトアップされるんだね!」


「綺麗だな〜!」

二人は美しく輝く湯畑にしばらく見とれていた。


「あの〜。すいません!」

油断していた二人が振り向くと、後ろには赤い光を放つ女が立っていた。


「またかよ!」

結人は、天音を庇う様に前にでて、身構えた。


「あの〜。あなた達は使徒?」


「そ、そうだけど?」

結人は臨戦態勢で身構えた。


「あっ、私に敵意はないわ!」

女は両手を大きく振り、焦った表情だ。


「じゃあ、何だよ。」

結人は警戒している。


「あなた達、契約関係?」

結人は、天音を見る。

「そうだけど。」

天音は仕方なさそうに答えた。


「わ、私も仲間に入れて欲しいの!

見てたの。龍神族との戦い。」


「俺の華麗な戦いっぷりに、仲間になりたくなったって訳か!」

結人はドヤ顔で嬉しそうにしている。


「そう。私、約に立つよ!」


「役に立つ?どんな風に?」

天音は女を怪しむ様に問いかける。


「私の能力は、鳳凰族から授かった。

鳥達と繋がれる。まだスズメくらいだけど、体の光る使徒を見つけられる。」


「おぉ!それはすごいな!」

結人は食いついた。


「どう・・・ですか?」


結人は意見を求める様に天音を見た。

「まぁ、いいんじゃない?」

天音は賛成のようだ。

「じゃあ、いいよ。」


「結人、自分でちゃんと考えた?」

天音は呆れている様子だ。

「俺はどっちでも良かったから。

天音がいいならいい!」


(たまにバカよねこの人。)

「じゃあ、契約しましょ。」

天音は女に手を差しだす。

「やったー!」

女は嬉しそうに天音の手を握った。


三人はベンチにならんで座った。

「ステータス。」

結人と天音のステータスが表示された。

「ステータス」

女もステータスを表示させ、手をかざす。

序列・・は私が下でいいから。」

そう言うと、ステータスを結人達のステータスに重ねた。


三人のステータスが一緒に表示される。

「ふふっ。こうして見ると、結人のステータスって雑よね〜。」


「全くだ!けしからん。

あっ!俺、レベル3に上がってる!」

結人は嬉しそうにする。

「でもさ、このレベルって何?」


「多分、私達のこの項目、半身可能。とか、回復可能とかを、面倒だからレベル表示にしたんじゃない?」


「・・・ひどくないか?何ができるか全く分からんぞ!」


「ふふっ。そうね。3つ目だから、グレイ族に半身できるとかじゃない?」


「なるほど。明日ひと目のない所で試してみよう。」

結人はワクワクした様子だ。


「所で、あなた名前は?」

天音は女に問いかける。

「私は、立花たちばな 麗央奈れおな。よろしくね!」


「私は、白河天音、こっちは」


「大原結人だ!麗央奈、よろしくな!」


「よろしくね、結人!」


二人がニコニコと嬉しそうにしているのを、天音は少し不機嫌そうに見ていた。


三人はゆっくりと歩きながら、旅館に向かっていた。

麗央奈は人懐っこい犬の様に、結人に腕を組み、べったりしている。

(なんなのよ!近いよ。結人にくっつかないで!・・・あれっ?何で?私・・・?)


「お〜い!天音!どうしたんだ〜?」

天音が考え事をしている間に、二人は遠くまで歩き進んでいた。

「なんでもない。」

結人達に聞こえるか聞こえないかくらいの声で天音は呟き、早足で追いついた。


「天音、麗央奈泊まるとこないらしいからさ、三人で泊まろう。その方が天音も安全だろ?」


「そ、そうね!そうしましょ。」

天音は少し寂しそうに答えた。


旅館の部屋に戻ってからも、麗央奈は結人にべったりだ。


「俺もう寝る。」

戦いの疲れが出たのか、結人は眠気に襲われた。

「じゃあ私も〜!」

麗央奈は、結人の横になったベッドへ潜り込もうとする。

「ちょ、ちょっと!それは・・・ダメー!」


「何で?天音ちゃんも結人と寝たいの?」


「・・・。」

天音は自分の気持ちもよく分からず、答えられなかった。


結人は天音の気持ちも知らず、麗央奈にくっつかれて嬉しそうにしている。


「何よ。鼻の下伸ばして。勝手にすれば!」

天音は、もう一つのベッドに潜り込んだ。


「えっ?天音?」


「もう寝る!」


「そっか。おやすみ。」


「おやすみ!」


しばらくすると、結人の寝息が聞こえる。

(疲れただろうな。結人。おやすみ。)

天音は気にせず眠る事にした。


(寝れない。)

自分の背中の向こうで、結人と麗央奈がくっついて寝てると思うと、麗央奈への憎悪が天音を苦しめる。

(私・・・天使の使徒なのに。)

耐えられず、天音は起き上がり結人の方を見ない様にバルコニーに出た。

「あ~ぁ。契約しなきゃ良かった。

・・・夜風、気持ちいいな。」


「天音。眠れないのか?」


「えっ?起きてたの?」


「喉渇いて目が覚めたら、天音がいなかったから。」


「疲れてるんでしょ?早く寝たら?」


「天音?何か怒ってるのか?さっきから変だぞ。」


「別に。」

夜風に長い黒髪をなびかせる天音は、天使の様に美しい。


「そうか。」


(言う事聞かない気まぐれな猫より、従順で人懐っこい犬の方がいいんでしょ!・・・なんて言えない。)


「いや〜、でも麗央奈も大変だな。」


「何が?」

天音はムスッとして答えた。


「中学生なのにこんな事に巻き込まれてさ、戦える能力もないし、鳥の視線を利用してずっと逃げ回ってたんだってさ。

麗央奈、妹みたいで可愛くてさ〜!

守ってやろうな!」

結人は天音に何の下心もない、良い兄の様な、男らしい表情で言った。


「珍しいわね。結人が男らしくみえた。」

天音は気付いた。

(・・・私、私は!中学生にヤキモチを妬いていたってこと!?麗央奈、ホントに中学生?!大人っぽいから気づかなかった。

そう言う事・・・なのね。

・・・私、やっぱり結人に惹かれてるの?)

恋のこの字も知らなかった天音の心は、混乱の渦の中にあった。


「ひどくないか?まぁ、否定はしないけど。」


「ふふっ。」


「あっ!やっと笑った!」


「な、何よ。」


「笑ってた方がかわいいぞ。」


「バカ。」

天音は嬉しそうに頬を赤らめた。


「あー!また眠気が。天音、寝ようぜ。

明日も使徒と遭遇するかもしれないんだし。」


「そうだね。」


二人は部屋の中に戻った。


「・・・。」

「・・・。」

二人は、ベッドの前に立ちつくしている。


「なぁ、天音。俺、寝るとこない。」


「そうだね。キレイな大の字だね〜。」


「ふふっ。」

「はははっ。」

二人は大の字でベッドを占領する麗央奈を愛おしい気持ちで見つめていた。


「天音さん?」

「いいわよ。混浴我慢したご褒美。一緒に寝ましょ。でも触ったりしたらベッドから落とすからね。」

天音は満更でもなさそうに、結人をベッドに招いた。


こうして、麗央奈が仲間に加わり、三人での旅の続きが始まる。


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