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始まり。

旅。

それは人々の心をワクワクさせたり、躍らせたり、少なからず幸せな気持ちにさせてくれる。

そう。終わりの見えている旅は、だ。

これからの俺達の旅には終わりが見えない。1年か、10年か、終わるのか。

終わりのない旅は人生の様だ。

一抹の不安を抱えながらも、俺は天音と門出の日を迎えた。



「あ〜!ついに出発だな!」


「そうだね。」

助手席でシートベルトをしながら、天音は答える。


二人は住んでいた家をを引き払い、荷物も最小限にした。


結人は、今にも走り出そうとしているこの、ハイグレードキャンピングカーを購入した。


二人の門出。

それは、期待と不安の入り混じる。

いや、「期待」は結人だけなのかもしれない。


天音は不安に満ちた表情で結人の横顔を見つめた。

「ねぇ、これからどこを目指すの?」


「草津?」


「・・・草津。」


「そう、草津。」


「何で?」


「温泉・・・混浴?」


「無理。」


「・・・。」


「結人・・・ちゃんとしなさい!」


「ちゃんとする!でも・・・草津がいい。」


「ハァ・・・ハグしたのが間違いだったわ。

あれからあなたの視線、怖いんだけど。」


「そんな事ない!俺が天音に向ける視線に、下心は・・・」

結人の脳は疚しい思考を感じとり、その先を躊躇った。


「ハァ。先が思いやられるわ。

ガブリエル様、本当にこの人で良かったのでしょうか?」

天音は両手を握り、天に向かって問いかけた。


「弁解の余地がない・・・草津は辞めよう。」

結人は寂しそうに呟く。


「いいわよ草津で。どうせあてもないんだし。

ただし!混浴は無し!分かった?」


「は〜い。」

結人はほんの少しの期待を胸に、

スタートボタンに指をのばした。


キキキ。

ブォーン。

二人を乗せたハイグレードキャンピングカーは、草津温泉に向かい走り出した。


「天音!どうよ?」


「何が?」


「乗り心地だよ!」


「普通。」


「連れねーな。最高!さすがハイグレード!とか言えないのかよ。」


「だって、普通だし。」


「まぁいいけど。」


途中、二人はサービスエリアに立ち寄る。


天音が車に戻ろうと歩いていると、結人は大きく掲示された地図を見ていた。


「ねぇ。何見てるの?」


「・・・例えばさ、神様から力を授かった使徒はさ、その神様の近くにいるのか?」


「多分関係ないと思うよ。

戦う意志のない使徒は除いてだけど、稲荷や私達みたいに旅をしている使徒がほとんどじゃない?」


「あ~。そうか。じゃあやっぱり、旅をして偶然出会うのを待つしかないって事だな。」


「そうね。」


「じゃ、草津へ向かいますか!」


「了解!」

(以外とちゃんとしようとしてるのね。

安心した。)

天音は、結人がいつ逃げ出すか不安で仕方なかった。



そして、ついに、二人は草津温泉へ。


「すご〜い!」


「うわ〜!すごいな!湯畑、一度は来てみたかったんだ!」


「来て良かったよ!」

乗り気でなかった天音も、湯畑を見て飛び跳ねながらはしゃいでいる。


「うん、うん。」


「こんな感じで色々な所行けるといいな〜。」


「うん、うん。」

結人はただただ、頷く。


楽しい雰囲気に、結人はここに来て良かった。

そう思った。

のはつかの間だった。

青白い光を放つ影が二人の背後から近づく。


そして、青白い光を放つ手は、結人の肩に触れた。


「えっ?」

結人は肩に触れた光を放つ影が視界の端に入り、一瞬放心状態になった。


すぐに我に返り、天音の腕をつかみ、距離を取った。

振り向くと、青白く輝く大男が立っている。


「おっ、お前は使徒か?」


「いかにも。俺は龍神族の使徒だ。

お前達の命、貰い受ける。」

そう言い放つと、男は結人に殴りかかった。


「いきなり何だよ!」

結人はヒラリと交わし、叫ぶ。


ドカーン。

結人の後ろにあった建物の壁にヒビが入る。


「えっ?これアニメのやつじゃん!」

結人は恐怖におののく。


「結人!大丈夫!多分あなたの防御力なら戦える!」


「いや、戦わなくても眠らせたらいいじゃん!そもそも多分では不安だ!」


「眠らせても勝てないでしょ!

まだМPも少ないし、心臓作戦も使えないじゃない!」


「確かに・・・逃げる?いやっ!頑張ると天音のハグに誓ったんだ俺は!」


「こんな時に何いってんの!」

二人が言い合いをしていると、2撃目が結人を襲う。

(今よけたら、天音にあたる!)

結人は覚悟を決めた。

腕を十字に構え、男の拳を全力で踏ん張りながら耐えた。


「ゔっ。痛い!ちゃんと痛いよ天音さん!」


「ばか言ってないで反撃!」


結人は渾身の力で龍神族の腹に拳を叩きこむ。


「・・・。」

龍神族の男は、微動だにしない。


「なんだそれは!」

すかさず結人の顔面に拳が飛んできた。

結人は腕で顔を守るように受け止めたが、吹っ飛んだ。


「痛てて。」

結人はゆっくりと立ち上がる。

「・・・思いついた。」

結人は不敵な笑みを浮かべ、唱えた。

「スリープ」

その刹那、結人は龍神族の男の腹に拳を打ち込んでいた。


「え?結人、何したの?!見えなかった?」


「ぐはっ。」

龍神族の男は、口から血を流しうずくまる。

「スリープ」

すかさず崩れ落ちる男の顔面に蹴りをいれた。


ドスーン。

男は吹っ飛び建物の壁に叩きつけられた。

建物の壁は凹み、凹みからヒビが広がる。

衝撃の強さを物語る様に。


「どうだ!降参しろ!」


「やるではないか!私も本気になろう。」


「・・・えっ?・・・ね〜天音さん、あいつ本気じゃなかったんだ?」


「構えて!多分変身するよ!」


「ガァー!」

龍神族の男の体は膨れ上がり、体は見るからに硬そうな鱗に覆われた。


「怖いよ天音さん!」


「大丈夫!頑張って!不幸中の幸いよ。

あいつの変身はまだ半分って所。完全に龍に変身されてたら今の結人に勝ち目なかったかも!」


「何だよそれ!ちくしょう!どうしよ。」

結人は混乱状態だ。


「おー!」

そうしている間にも、龍神族の男の拳が結人を襲う。


「わぁ!

さっきより早い!」


ドッカーン!

結人の後にある建物が崩れ落ちる。


「ぎゃー!」

周りにいた観光客は、映画の撮影でもしているのかと、興味本位で遠くから見物していたが、あまりの出来事に逃げ惑う。


「・・・詰んだ。これつんだよな!天音さん!無理!」


「頑張って!勝てたらご褒美あげるから!」

離れた所から天音は応援した。



「ご、ご褒美!

必ず勝ちます!

欲しがりません、勝つまでは!」


「おー!」

龍神族の男の本気の2撃目が迫る。


「スリープ・・・って!眠らね〜!」


「スリープ!」

ドカーン!

結人は咄嗟に男の拳を地面に受け流した。


「分かったわ!結人は自分の体にかかるブレーキにスリープをかけてるのね。

人間は能力の2割3割しか使えないって言うもんね。しかも、普通なら体が壊れちゃうけど、グレイ族の特徴である体の強化がそれを可能にしてる・・・やるじゃない!」

天音は、息子を見る母親の様な喜びを感じた。


(何だよ。何で眠らないんだ!

あっ!麻酔みたいな物か。体がデカいと麻酔も多め強めだもんな。

あいつ、1、2、3・・・5人分くらいか?余裕を見て。)

「スリープカケル8」


バタン。

龍神族の男は眠り、体は元の姿に縮んでいく。


「よし!作戦成功だ!」


5秒後、龍神族の男は立ち上がる。

「おー!」


「げっ!まだ変身できるのかよ!

・・・ん?」


「おー!」

「おー!」

龍神族の男は変身しようとしている様だが、一向に体の変化は見られない。


「結人!多分МP切れよ!チャンス!」

天音は大声で叫ぶ。


「なるほど・・・スリープカケル3」

結人はそう唱えると、次の一瞬、龍神族の男に連携を叩きこんだ。

15秒間、普通の人間なら一撃で体に穴が空くくらいの衝撃を結人は叩き込み続けた。


頑丈な男の体に、ついに穴が空き、血が噴き出した。


結人は返り血を浴び、我に帰った。


「わぁーーー!」

意図せず、大量の涙が流れ落ちる。

稲荷の時とは違い、人を殺める感覚が直接感じられ、結人の精神は崩壊寸前だった。


「大丈夫。」

天音は駆け寄り、結人を抱きしめ、頭を優しくなでた。

「ゔ〜。」

天音に抱きしめられながら、結人は龍神族の男に目を向ける。

青白い龍を模った光が男を包み込み、稲荷の時と同じ様に、消えていった。


「ほら、生まれ変わった。

・・・だから、大丈夫。

大丈夫。」


「うん。」

結人は母親に抱きしめられる様な安心感の中、落ち着きを取り戻した。


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