稲荷。
自分だけが不幸。
そう思って毎日、毎日、ギリギリで生きている人間がほとんどだろう。
正直、何故生きているのか。
理解できない。
でも、人は生きたいと願う。
きっとそういうふうに作られている。
誰かの手によって。
俺はそれを知った時、絶望した。
だが、諦めの境地は、新たな自分を浮かび上がらせる・・・の、だろうか?
「まず、俺の話をする。
俺は、大原結人だ。」
結人は、宇宙人とのやり取りの全てを、一部始終、余すことなく話した。
奴らへの怒り、不満、憎悪がそうさせた。
「と、いう訳で、俺は何も知らない。」
結人が不満そうに話終えると、
女の肩が震えている。
「ふふっ、ふふふっ。
あはははっは!」
「笑うなよ・・・俺は一切笑えない。」
「ごめん、ごめん!
グレイ族は適当って聞いてたけど、想像以上で。」
女は笑いすぎて涙目になっている。
結人は無言のまま、女を睨んでいた。
「はいっ!」
女は切り替えようとばかりにパチンと手を叩きながら言う。
「次は私ね。
まず、私は白河 天音。よろしくね。」
「あっ、あぁ。」
先程自ら広げた距離を擦り寄る様に縮めて来る天音に、結人は少し動揺した。
(こいつ・・・やっぱり美人だな。)
「何?」
結人は気付かないうちに、天音の顔を凝視していた。
「い、いや・・・で?」
誤魔化す様に言うと、腕を組みソファーの背もたれに体を預ける。
「何から話そうかしら。
・・・とりあえず、使徒についてかな?」
「あぁ、その使徒って何なんだよ。」
「まず、人間の世界に存在する架空たされる生き物。それは存在するの。」
「ん?例えば俺の合った宇宙人か?」
「そうね。私の場合は天使に出会った。
さっきの男は、稲荷神の使徒。
その数多く存在する架空の生き物の頂点にいるのが最高神。最高神はこの世の全てを作った存在。私やあなたさえ、最高神が作ったそうよ。」
「なるほど。」
「物わかりがいいわね。
私はしばらく信じられなかったわ。」
「真面目だけが取り柄だからな。
その辺は柔軟にできている。」
(あの日、宇宙人に会った日、俺の思考は近い所を想像していた。なんて言ったらドン引きされそうだな。)
「まぁいいわ。
その最高神の下の序列は、100年に一度入れ替わる。そのために、私達はそれぞれの種族に使徒として選ばれ、戦う事を義務付けられたの。」
「人間は?人間は、その使徒を選定できないのか?」
「そうね〜。多分・・・人間は他の種族からすれば、地球と言うゲージに入れて飼っている飼い犬みたいな所だと思う。
人間が犬を競わせる様に、私達はきそわされる。」
「・・・笑えないな。」
「そうね。でも、もう後戻りはできない。生き残るためには戦うしかない。」
「負けて・・・負けて死んだらどうなる?」
「生まれ変わる。
だから、死にたいとか、世界を破壊したいとかそういう感情の強い人間が使徒に選ばれる。だから、中には頭のおかしい奴もいるでしょうね。」
「あー!最悪だ!」
「・・・そうね。」
「ステータス」
結人はおもむろにステータスを開いた。
「なぁ、天音。
このステータスはお前も見えるのか?」
「ステータスは本人にしか見えないわよ。」
「そうか。ステータスってもっと色々書いてあると思うんだが、1ページだけ、それも5行くらいの文字数なんだけど、
他に触れないのか?」
「ふふっ。ふふふ。」
天音は肩を震わせている。
「あはははっは!」
「な、なんだよ突然。」
「ステータスまで適当に作られたのね。
説明無し、ステータス適当ってついてないわね〜。私のステータスは10ページくらいはあるわ。」
「はぁ。マジかよ・・・あいつらー!」
結人は怒りを顕にする。
「ん?!待て!」
「何よ?!」
突然思い詰めた様子の結人を見て、天音は身構える。
ピンポーン。
その時、インターホンが鳴る。
「・・・。」
「誰かきたよ。出ないの?」
「多分・・・あいつだ。」
「あいつって?」
「稲荷の使徒だよ!」
ピンポーン。
「えっ?何で?眠らせて逃げ切ったんじゃ?」
「ステータス見て気付いたんだ!
俺はさっき咄嗟に15回分のスリープを唱えたんだ。」
「うん。で?」
「15回分はМP75だ。
レベルが2になってるけど、なんかもう仕組みが良く分からんが、とりあえず俺の最大МPは今70だ。
多分さっきのスリープは発動してない!」
「え〜!最悪!どうすんの?」
ピンポーン。
ピンポーン。
ドンドンドン。
「やばい!窓から逃げるか?」
「・・・戦って。」
天音は呆れる様に言う。
「殺すのは嫌だ!」
「じゃあ私達はここまでね。」
「・・・分かった。でも、眠らせるしかできないんだぞ俺は!
格闘技も習った事ないし。」
「そうね。あなたの能力は、恐らく最強。まだМPが足りないけど、やるしか無いわ。」
「何を!」
ドンドンドンドンドン。
「開けろ!いるのは分かってる!」
稲荷の使徒は叫び出した。
「眠らせるのを体じゃなくて、心臓にするの。数分間止めないと人は死なないと思うけど、それしかない。」
「い、嫌だ!」
「やって!早く!」
「あー!どうにでもなれ!」
結人は頭を抱えながら、唱えた。
「スリープカケル14」
その瞬間、ドアを叩く音は止まり、静寂を取り戻した。
ドス。
そして、ドアに何かが当たり、ずり落ちる様な音がした。
まるでドアがガラスの様に透明であるかの様に、稲荷の使徒が倒れる姿を鮮明に想像させられる様な音が結人の脳内に雪崩の様に流れ込む。
「あぁ。ゔぅ。」
「項垂れてる時間ないよ!」
天音は稲荷の使徒がもたれかかっている重たくなったドアを必死に開けようとしている。
「何してんだよ?!」
「いいから!手伝って!」
結人は震える膝を支えながら、天音とドアを押す。
稲荷の使徒の体が引きづられる様にして、ようやくドアが空く。
天音は、動かなくなった稲荷の使徒の体に、すかさず飛びつき持ち上げようとしている。
「おっ、おい!何を?」
「落とすの・・・頭から。」
(こいつ・・・サイコパスか。)
「こいつサイコパスかとか思ったでしょ?私はあなたと出会えるまで逃げる事しかできなかったの!何度も死にかけた。生きたいの!」
「俺も・・・俺も生きたい!」
結人はそう思うと、体が勝手に動き出していた。
ドスン。
稲荷の使徒は、頭から血を流し倒れている。
どこからとも無く、黄色い光?まるで大きなキツネを模った様な。そんな何かが、稲荷の使徒を包み込んだ。
光は大きく輝きを放ち出し、稲荷の使徒と共に消えてしまった。
「終わったね。」
天音は崩れ落ちる様に座り込んだ。
「なぁ、天音。」
「何?」
「俺、こんなの耐えれないぞ。」
「だめ。私が生きるにはあなたの・・・結人の力が必要なの。協力して。」
「・・・そうだな。俺も死にたくはない。」
「だよね〜。」
二人はしばらく動けず、玄関のドアの前に座り込んだ。
結人はМPを使い切った眠気に襲われ、その場で眠りそうになる。
「ちょ、ちょっと!まだ寝ないでよ!
中入ろ。」
結人は天音の差し出す手を取り、
体を引きずる様にベッドまでたどり着くと、倒れ込む様に眠った。