絶望感。
精神の崩壊と共に、俺の思考は良く分からない方向へ向かっている。
この世界の大方の事象は、科学で解き明かされている。
だが、それは本当に正しいのだろうか?
教科書に記載された事は、本当に正解なのか?
人々は、疑いもせずにそれを正しいと認識する。
それは、滑稽でいて恐ろしい。
俺はこの世界の事象について物思いにふけっている。
「お客さん、終点ですよ。」
「えっ?」
俺は、集中しすぎていた様だ。
この電車は終電。
そしてここは終点。
・・・つまり、家に帰れねー!
焦るな俺。冷静になれ。
そうだ。
駅前の漫画喫茶にでも泊まろう。
俺は、ごく普通のサラリーマンだった。
・・・今日までは。
俺の名前は、大原 結人。
自分で言うのも何だが、真面目だけが唯一の取り柄だ。
・・・真面目だけが。
そんな俺だったが、
今日、俺の精神は崩壊した。
みんな大好きな人の不幸。
聞かせてやるよ。
俺の働く会社はいわゆる中小企業の小の方だ。
働く環境は・・・そう。
ブラック企業というやつだ。
入社当時から数年はまだマシだった。
部下はいないものの、上司がいた。
上司はそれなりに仕事もでき、頼りになった。
だが、数年前に上司が退職。後を追う様に、その他数名が順番に退職していった。
それからは、やめた社員の仕事が全て俺にのしかかる。
一人退職するごとに俺は追い込まれていく。
新しい社員が入ってくる事もない。
会社は回ってるんじゃない。
無理矢理回してるんだ。
そして、もちろん給料は据え置き。
逆定額制と言う言葉が当てはまるだろうか?
休日出勤には、手当もつかず、代休も取るひま無し。
残業代?
何ですかそれ、美味しいですか?
本当に嫌気がさした。
俺が正気を保ってこれたのは、愛する人の存在。
彼女は俺にはもったいないくらいの女性だった。
そんな彼女をも変えてしまった俺。
会えない、稼げない、会っても疲れきっている。
そんな日々も、俺にとっては幸せだった。
でも、彼女にとっては違った様だ。
昨日、仕事で町中を歩いていると、見知らぬ男と腕を組み歩く彼女を見た。
「俺といる時より楽しそうだな。」
兄妹だったりしないだろうか?
そう思い、夜に電話で聞いてみた。
兄妹ではなかった。
2年間続いた幸せな日々は終わりを告げた。
だから、今日。
俺の精神は崩壊したんだ。
会社も辞めてやった!
「あぁ。もっと早くこうしていれば。」
後悔が押しおせてくる。
押しつぶされそうだ。
俺は、昼間から慣れない酒を飲み、
呑まれた。
気づけば、終電で終点。
そして、終電でたどり着いたこの終着駅。
駅から外に出ると、俺は驚愕した。
「なんて事だ・・・。」
視界に広がるのは、暗闇。
街灯も無い。
暗闇に目が慣れると、
・・・辺り一面田園風景。
「あ〜。ひどい人生だ!」
俺は叫んだ。
「こんな世界、ぶっ潰してやる!」
俺は誰もいない暗闇で一人、
叫んだ。
「ケラケラケラケラ〜。」
空から不気味な笑い声が聞こえた。
空を見上げると、満天の星空を隠す様に、大きな円の影。
影から俺に向かって光が差し込んできた。
「わぁ!」
俺は、恐怖のあまり叫んだ。
体が光に吸い込まれる様に、空中に浮いたからだ。
そのまま、どんどん高く体は上空へ。
丸い影に吸い込まれる様に。
余りの高さに俺は目をつむった。
しばらくすると、足が地に着いた感触。
恐る恐る目を開けた。
「ケラケラケラケラ〜。」
目の前で、テレビや映画で見た事のある異様な姿をした物体が笑って?いる。
「宇宙人ってやつか?」
恐怖も度が過ぎると、結構落ち着いていられるんだな。
グレーに近い色だが、
地球上では見た事のない質感の肌に、
黒い大きな目。
スタイルはいいが、頭が少し大きい。
そんな宇宙人と俺は冷静に見つめ合っていた。
「まぁ、そんな所だ。
お前は、この世界を壊したいのか?」
会話、できてる?
すごいな。
「そうだな。こんな世界、
ぶっ潰したい!」
俺は叫んだ。
「ケラケラケラ〜。お前に決めた〜!」
宇宙人はニヤニヤしながら言った。
「決めた?」
俺は、問いかけた。
「・・・。」
宇宙人は無言で近づいてきている。
腕を上げ、人さし指を突き出し、
俺の額に触れた。
一瞬、何かが体の中に入ってきたような・・・そんか感覚を覚えた。
「な、何をしたんだ?」
俺は宇宙人に問いかけた。
「心の中で、ステータスオープンと叫んでみろ。」
俺は言われるまま、心の中で叫ぶ。
(ステータスオープン!)
「何も起こらないが?」
俺は、目を細め宇宙人を睨みつけた。
「ケラケラケラ〜。心の声が小さい。
もっと大きくだ!」
宇宙人が精神論?
マジかよ。
(ステータスオープン!!)
俺はさっきより強く心の中で叫んだ。
「お前ら、俺をバカにしてるだろ?」
俺はもう、宇宙人に不信感しか無かった。
「ケラケラケラ〜。
もっとだ!」
(ステータスオープン!!!)
「もっと!」
(ステータスオープン!!!!)
「もっと!」
「ステータスオープン!!!!
あっ、つい口に出た。」
すると、ゲームで見る様な画面が目の前に現れた。
「何だこれ?
・・・というか、声に出さないと出なかったんじゃないのか?」
「・・・。」
「おぃ!黙るな宇宙人!」
俺は宇宙人を睨みつける。
「久しぶりの参加だからな。
まぁ、気にするな。」
「なんだそれ。
まぁ、いいわ。で、これは?何なんだ?」
目の前に出てきた画面を見つめ、俺は宇宙人に問いかけた。
「ケラケラケラ。
お前に世界を破壊する力を与えた。
後は好きにしろ〜。」
「せ、説明しろよ!」
宇宙人に訴えかけたのも虚しく、
目の前が光に包まれ、
俺は目を閉じた。
しばらくして目を開けると、俺は駅の前に立っていた。
「ふざけんなー!」
俺は空に向かって叫んだ。
辺りをまばらに歩く人々は俺を不信な目でみた。
気づけば、辺りは明るくなっていた。
「あれっ?
俺・・・結構ながい間、あいつらといたんだな。」