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後編

彼女を初めて見た時、俺は彼女に運命を感じた。



ミリアから一年前に教会で身寄りのない()を引き取り、その娘を妹の様に可愛がっているという話は聞いていたが、実際に会ったことは無かった。


そんなミリヤの妹分が人攫いに逢ったと仲間から報告を受けた時、俺は直ぐにギルドのメンバーを集めて少女を探した。


途中ミリヤと合流して二人で少女を探す中、俺達は一年前に逢った黒騎士と対面する事になった。

どうやら少女は黒騎士に救われていたらしい。


黒騎士の言葉で憤るミリヤを抑え、二人で人攫いの小屋へと向かう。


小屋のドアをこじ開けた時、叩きのめされて気絶している人攫い達の真ん中でポツンと立っている少女を見つけた。


その時俺の中で時間が止まる様な感覚に陥った。


美しかった。

銀色の美しい髪が揺れ、宝石の様に青い瞳が俺を射抜く。

整った顔立ちに、服の間から見える透き通るような白い肌は、まだ十五、六歳にしか見えない少女だというのに酷く官能的に見えた。


「コウ!!!」


彼女の容姿に固まっている俺を余所に、ミリヤが少女を抱きしめる。


「コウ!!大丈夫!?怪我はない!?ひどい事されなかった!!?」

「ミリヤさん……大丈夫です。黒い騎士さんが助けてくれました……」

「……そう……。とにかくコウが無事でよかったわ!!」


ようやく止まっていた時間が動き出す。

その後ギルドの仲間や、教会の神父様などが集まり皆で彼女の無事を喜んでいた。


その後人攫い達を衛兵に突き出した俺達は、なぜ彼女だけが狙われたのかを聞いた。

すると人攫い達は何者かの依頼で彼女を攫おうとしていた事が分かった。

依頼主までは分からなかったが、確実に何者かが彼女を狙っているという事だけは分かった。


その後渋るミリヤを説得して、他言無用と言う事で彼女の出立を聞いた。

その説明を聞いて俺はようやく今回の事件に合点がいった。


白銀の(エンシェント)ドラゴンの娘ならば彼女が狙われるのも分かる。

どこからその情報が漏れたのかは分からないが、警戒は怠らないほうがいいだろう。


コウはその後、俺達のギルドの受付の手伝いをするようになった。


ミリヤがコウを心配して言い出した事で、神父様は元冒険者といっても既に歳をとっているため、ギルドでコウを守る事にしたのだ。

朝晩の送迎はミリヤがして、ミリヤが仕事で手が離せない時は他のギルドメンバーが彼女の送迎をする。

最近ミリヤは教会で寝泊まりもする様になったらしい。


身目麗しいコウは、瞬く間にギルドの看板娘になった。

男女問わず荒くれもの共の集まりであるギルドにおいて、彼女は皆の癒しだったのだ。


それから数か月は特にこれといって大した事件は起きなかった。


だがある日、街にワイバーンの群れに乗った魔族達が襲来した。

魔王による地上侵略の魔の手がまたしてもこの地に降りかかったのだ。


俺達は必死に戦ったが力及ばず、魔王軍の幹部を名乗る魔族によってあわや全滅の危機に立たされていた。

そして魔王軍の幹部は俺達の命を救う条件として、白銀の髪に青い目をした少女を差し出すよう要求してきた。


当然そんな要求飲めるはずもなく、俺やミリヤを始めとしたギルドメンバーは命を賭してこの街をそしてコウを守るため立ち上がった。

そんな時だ───


「たかが小娘のケツを追ってこの地まで来たとは笑わせる……」


漆黒の黒騎士が再び現れたのは。


その後の戦いはまるで神話上の戦いの様だった。

黒騎士の圧倒的な暴力に成すすべもなく粉砕されていく魔族達。


走れば目にもとまらぬ速さで、衝撃波を放ちながランスを突き立て魔族を粉々にしていく。

円状の巨大な盾をまるでフリスビーの様に投げれば、宙を舞うワイバーンはまるで紙切れの様に切り裂かれていった。


「き……貴様ぁ!!一体何者だァ!!?」

「ふん……俺が誰かお前に関係あるのか?今から死ぬお前に……」

「ほ……ほざけぇええええ!!」


魔王軍の幹部との戦いも一瞬でケリがついた。

黒騎士は気だるげにランスを投擲すると一瞬にして目にもとらぬ速さでランスは魔王軍の幹部を貫き、後ろで構えていた魔王軍をも巻き込んで粉砕した。


そして魔王軍を全滅させた黒騎士は呆然とする俺達に吐き捨てる様に言い放った。


「あんな厄介事しか持ってこない小娘などさっさと捨ててしまえ」

「な……なんですって……!?」

「あの小娘など百害あって一利なし……だ。さっさと追い出すことをお勧めするね……」

「あ……あんたにあの()の何が分かるの!?助けてくれたことには感謝するけどあの()の事についてとやかく言われる筋合いはないわ!!」

「……はっ。何が分かるかだと?……分かるさ。只の役立たずの厄介者ってことはな……」


そう言って黒騎士は煙の様に消えてしまった。


それからしばらくして、この辺では普段現れないような凶悪なモンスターが頻繁に出現する様になった。

しかしその度に黒騎士が現れモンスターを退治していく様になった。


確かに黒騎士はこの街の救世主だ。

今現在も彼にお陰で助かった仲間たちが大勢いる。


でも……俺は彼と分かり合う事は絶対に出来ないだろう。

例え彼の言っていることが正しかったとしても、俺は彼を認める訳にはいかなかった……。



どんだけ街を救っても。

どんだけギルドの人たちを助けても。


なぜがどんどん下がっていく黒騎士の評判に、俺は内心の涙が止まらなかった。


殺したドラゴンの呪いで女になってしまった俺は、最初本当に苦労した。

なんとドラゴンだけではなく普通にこの世界の言葉が解らなかったのだ。


そこは転生特典かなんかで普通解るだろ!?ってなったのも今ではいい思い出?だ。

ミリヤや神父様、シスター達のお陰で俺は何とか人並の生活を送れるようになった。


皆には感謝してもし足りない。

始めは女性物の下着や服を身に着けるのすら恥ずかしがっていた俺だが、今では何の抵抗もなく着こなすことが出来る!


しかし最近は皆の過保護が過ぎる気がする。

俺の大ポカで攫われた後から、ミリヤを始め神父様もギルドの人達、ついでに教会の子供たちですら俺の心配を必要以上にする様になった。


更には街に襲撃してきた魔族とかいう奴らのせいで、俺が狙われている設定までついてしまった。

絶対あいつら何か勘違いしてる。


このままでは皆に迷惑をかける一方なので、それとなくあいつ捨てたほうがいいですよ?っと黒騎士に変身して伝えたのだが逆効果だった様だ。


黒騎士……。


俺の頭を悩ませている一番の原因だ。

黒騎士の話をするとミリヤやギルドのアレックス、更には優しい神父様やシスターですらいい顔をしない。


なぜここまで嫌われているのか……。

いや、本当は理由を分かっている。


黒騎士になるとなぜかめっちゃ口が悪くなるのだ。


「少女を探してるんだよね?」→「あんな小娘一匹の為に随分と必死だな……」

「彼女がいると厄介みたいだけど大丈夫?」→「あんな厄介事しか持ってこない小娘などさっさと捨ててしまえ」


てな感じでめっちゃ口が悪くなる。

中二病全開みたいな語録に悶絶しそうになるが、俺は黒騎士に変身せざるを得ないのだ。


なぜなら黒騎士に変身しない俺の身体能力はクソザコナメクジだからである。

教会でかけっこをして、自分より歳が確実に下であろう女の子に完敗した時は愕然としたね。

バケツいっぱいの水を皆がすいすい運んでいる時に、俺一人プルプルしながら運んだ時は目から汗をかいた。


だから俺が皆を守るためには、黒騎士に変身するのは必須なのだ。


黒騎士に変身すると声だけでなく体格も変化する。

一度黒騎士に変身した時の容姿はどうなってるのか確認したくて兜だけ外そうとしたのだが、どうあっても外れる事は無かった。怖い。


ともかくこのままではダメだ!!


どうにかして黒騎士の評価を上げなければ、もし万が一俺が黒騎士とバレてしまった時が滅茶苦茶怖い。


俺の我儘だが、皆に涙ながらに仕方なく街から追い出されるのはまだ耐えれる。

仕方がないのだ、こうするしかなかったのだ……と街を去るならば俺は涙を堪えて……多分泣くけどまた耐えることが出来るだろう。


でも優しくしてくれた皆に蔑まれながら、石を投げられるかの如く追い出されたら多分俺は耐えられない。

その場で心が壊れてしまうだろう。


「コウちゃん?大丈夫?」


俺が一人で悶々としていると、ギルドの受付嬢であるマイカが心配そうに俺に話しかけた。

因みにコウは俺の名前である。

本名は山口光輝なのだが、うまく伝わらなかった様だ。

まぁ昔から仇名が「コウ」だったので違和感は無い。


「はい。大丈夫ですマイカさん。心配かけてごめんなさい」

「ううん!全然大丈夫だよ?でも何かあったらお姉さんにすぐに言ってね?」

「ありがとうございます」


優しく頭を撫でてくれるマイカに心の中でも感謝しつつ、やはりこんな優しい人達に後ろ指刺されるのは嫌だなと思う。


ミリヤ、神父様、シスター、教会の子供達。

ギルドのアレックスやマイカ達や街の人達、皆大好きだ。


だから今日も頑張ろう!!

皆の手に負えない怪物が出たら俺が戦おう!!


そうしていればいずれ黒騎士の評価が上がるだろう。多分。


だが黒騎士の評価が上がるまでは………中身が俺だと絶対にバレる訳にはいかない!!

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